本作「ゆるキャン△」は女子高校生がほのぼのとキャンプ生活を満喫するだけでなく、作中の随所にネットスラングやキャンパーあるある、緻密なバイクの描写などコアなキャンパーやライダー達にも楽しめる要素が散らばっています。そんな魅力たっぷりな本作の中で今回はその「ゆるキャン△」はなぜここまで面白いのかについて更に考えていきたいと思います。一見、ただ可愛いキャラクター達がワイワイとキャンプをしているだけの様に思えますが、1つ1つのエピソードにはしっかりと作者の伝えたいメッセージが隠されているのでそれについてまずは解説していきたいと思います。
1つ1つのエピソードに隠されたメッセージ
一見ただ可愛らしいキャラクターがワイワイしているだけの作品だと思ってしまいますが、「ゆるキャン△」では作者からのメッセージが1つ1つのエピソードにしっかりと織り込まれています。その中でも特にメッセージ性が強い「トンボロ現象の回」について解説していきたいと思います。
トンボロ現象の回とは?
伊豆旅行の一環で三四郎島へ渡るエピソードが出てきました。三四郎島では干潮時に海岸から三四郎島に渡ることができるようになります。このように潮の満ち引きによって島への道ができる現象をトンボロ現象というのです。
トンボロ現象に隠された工夫
やや専門的な話になってしまいますが、映像表現的に川や海を渡って別の陸地に移動するというのは渡ったキャラクターがこれまでとは全く違ったステップに移行している、もしくは渡っていない人物とは何か異なる点があるということを強調したい時に使われます。この表現方法は古くから使われているもので多くの作品で用いられているのですが、私はこの表現技法がまさしく「ゆるキャン△」の「トンボロ現象の回」に用いられているのだと考えています。
1人だけ渡っていない人物
「トンボロ現象の回」に先ほど説明した映像表現が用いられている理由の1つとして、明らかに意図的に島へ渡らせていない人物がいることが挙げられます。そう鳥羽先生です。つまり作者には何らかの伝えたいメッセージがあり、鳥羽先生を海岸に残し、生徒たちを三四郎島へ渡らせたのではないでしょうか?このように考えると、わざわざコマ数を割いてまで鳥羽先生が疲れているから島に渡らないという理由付けをしていることに納得がいきます。
鍵は鳥羽先生の「自然の不思議」発言
では、作者は一体何を伝えたいのでしょうか?それについては「トンボロ現象の回」のラストで海岸側で島を眺めながら鳥羽先生が放った独り言を分析してみればわかると思います。「1時間で海から道が現れて1時間後にはまた海へ消える、自然の不思議ね...」というセリフなのですが、この発言からは鳥羽先生がなでしこ達が渡った島への道は時間とともに消えてしまう、いわば有限のものであると捉えていることがうかがえます。
ここで言う有限とは何か?
果たして、ここで言う有限なものとはトンボロ現象によってできる島への道だけなのでしょうか?ここで言う有限なものとは、なでしこ達が現在満喫している青春の事も指しているのではないでしょうか?鳥羽先生が渡らなかった理由は鳥羽先生自身も過去になでしこ達のように限られた青春を満喫していたから(つまりもう渡り終えているから)なのではないでしょうか?もちろん、鳥羽先生が本当に昔三四郎島に渡ったというわけではありませんが、三四郎島を渡るということ自体が限られた青春時代を謳歌すると言う事の比喩となっているのです。
そして見えてくる鳥羽先生が写真を撮った意味
このようなことを考察すると、作中で鳥羽先生が島から戻ってくるなでしこ達を写真に収めた理由がわかるのではないでしょうか?なでしこ達は島で楽しくはしゃいでいる状態で、当然ですが島を出るということに意識を向けてないですし、青春が終わるという実感も当然ないはずです。しかし、鳥羽先生だけは遠くから客観的に彼女たちを眺めているため、いずれ彼女達が島からこちら側へ来る(青春を終える)ということに気づいているのです。いずれ終わりゆくもの(有限なもの)だからこそ写真に収めておきたいと思ったのでしょう。
テーマは青春の有限性
これらのことから「ゆるキャン△」の主なテーマとして青春の有限性が挙げられるのではないでしょうか?主人公のなでしこやリン、野クルメンバー達は島へ渡っている時のように、自身が今経験しているからこそ青春の有限性には気づけない。しかし一方で、恵那がちくわの死について考えた時や鳥羽先生側から生徒を見た時の様に、読者がはっとさせられる場所で「物事の有限性」について触れることで、読者が「彼女達が今経験している青春もいずれ終わりゆくものである」ということに気づくように仕掛けているのではないでしょうか?
キャンプファイヤーと青春
キャンプファイヤーの火も消えるから美しく、キャンプはすぐに終わってしまうからこそ楽しい。青春もあっという間に終わってしまうからこそかけがえの無いものなのかもしれません。
1人を否定しない
「ゆるキャン△」の場合、特に力を入れて描かれているのは「1人を否定しないこと」なのではないでしょうか?
興味深いテーマの反転
ぼっちを好む主人公が周りの人間の影響で社交的になっていくという話は多くありますが、活発な主人公がぼっち好きのもう1人の主人公の影響でソロキャンプに興味を持つといった面白い反転演出が行われています。
ここに「ゆるキャン△」の面白さの秘訣が!!
これまでは「1人であることを肯定する」アニメも多く作られてきましたが、キャンプというカラクリを使ってこれをうまくいったのは「ゆるキャン△」の凄いところだと思います。
そもそもキャンプとの相性がいい
そもそもキャンプは1人キャンプというジャンルが独立して存在していて、1人で焚き火を眺めながら淡々と自身と向き合うなどといったことも1つの楽しみ方として定着している趣味なのです。「1人であることの肯定」というテーマとキャンプという題材は非常に相性の良い組み合わせであることがわかります。
故にオタクはキャンプにハマりやすい
我々の悪い癖ですが、ついついライトノベルやプラモデルを自身の部屋に集めて1人の世界にこもってしまうなんてことも多々あると思います。これらの行為は先ほど解説した1人キャンプと通ずるところも多く、「ゆるキャン△」がアニメとしてヒットして、多くのオタクたちに受け入れられたことにも納得がいくのではないでしょうか?
コアな小ネタ!!
さてこれまでは、やや深く「ゆるキャン△」の魅力について掘り下げていましたが、これらのほかにも「ゆるキャン△」には多くの魅了があります。その1つが唐突に発せられるネットスラングなどのコアな小ネタです。ここでは作中で登場したいくつかのネットスラングについて解説したいと思います。
くぁwせdrfgtyふじこlp
冒頭で早速リンが恵那とのラインの中で発したネットスラングがこの「くぁwせdrfgtyふじこlp」です。一見何を言ってるのか分かりませんが、これはとあるインターネット掲示板にて、キーボードの上2列を指で左から右へ一気に押していくことで「ふじこ」が登場することが話題になったのが元ネタです。このネットスラング自体結構コアなものなので、もしかしたらリンも某ネット掲示板を使用しているのかもしれません。
気持ち良すぎィ...
こちらもリンが発したネットスラングです。某ネット掲示板ではよく「〜しすぎィ」という言葉が使われています。その言葉の元ネタについては言及しませんが、こちらもインターネット上で多く使われている表現であり、リンが日頃よくインターネットを使用していることがわかります。インターネットで見た表現が日常生活のふとした時に出てきてしまう事は我々にもよくありますね。
とにかく風景描写が綺麗!!
そして何よりも「ゆるキャン△」の素晴らしいところは風景描写が圧倒的に優れている点です。作中では多くのキャンプ場のジオスポットが登場するのですが、どの描写も細かく描かれており、その圧倒的な世界観に思わず引き込まれてしまうような気持ちになります。
細かいジオスポットの紹介!!
特に「ゆるキャン△」ではジオスポットの精密さが凄まじく、地質オタクも唸るほどの精密なジオスポットの描写が多々登場します。
まるで写真の様!?広角カメラ風の描写!!
近年では、私たちが持っているスマートフォンにも広角カメラが搭載されることが多くなり、一般の人にも認知されることが多くなった広角カメラですが、広角カメラというのは風景をよりダイナミックに撮影するために用いられているカメラなのです。「ゆるキャン△」ではこの広角カメラ付の描写をうまく風景画に組み込むことで、よりダイナミックな風景を描いています。
風景だけじゃ無い!!
もちろん風景だけでなく、脂ぎる肉の描写や乗り物などもこと細かく描かれています。
乗り物や道具もしっかり考えられている!!
更に作中に登場する乗り物や道具はほぼ全てが実在しているもので、「ゆるキャン△」を通して興味を持った乗り物や道具は実際に購入することができることも特徴です。
リンとベストマッチのビーノ
本作の中で最も印象に残る乗り物はリンの愛用するヤマハ・ビーノではないでしょうか?物静かな少女リンに明るい色のビーノが加わることで、程よいアクセントになっています。
それぞれのキャラにあった乗り物
リンのビーノだけでなく、リンのおじいちゃんはイギリス発の伝統あるバイクメーカートライアンフのスラクトンRを使っているなど、それぞれのキャラクターに合う愛車が割り当てられており、細かい設定の工夫を感じます。
キャンプ漫画としての工夫
又、「ゆるキャン△」ではいわゆる日常系と呼ばれる作品の弱点である、内容が平坦になってしまいがちという点を防ぐ為の工夫も多々されています。
リズミカルな小ネタとレベルアップ
「ゆるキャン△」ではリズミカルな小ネタと次のキャンプまでにそれぞれのキャラクターが新しい道具や趣味を獲得する、というレベルアップの様なステップを積み重ねることで、日常系アニメの宿命であるマンネリ化を上手く防ぐことに成功しています。
まとめ
いかがだったでしょうか?脳死で観ても十分面白い本作ですが、さらに深く分析してみることでこれまでに気づかなかった新しい魅力に気づいていただけたのではないでしょうか?今回紹介した要素以外にも「ゆるキャン△」には多くのメッセージや工夫が隠されているかと思います。皆さんもぜひ自分で探してみてください、きっと面白い発見がたくさんあると思いますよ。