幕末期から明治にかけてを舞台にした「るろうに剣心」ですが、実はジャンプ漫画に「るろうに剣心」と同じような舞台をモチーフにした漫画がある事はご存知でしょうか?江戸時代後期を舞台にしたドタバタSF時代劇「銀魂」は作中のシーンやテーマを分析してみるに、るろうに剣心から多くの影響を受けていることがわかります。今回はそんな、ジャンプ漫画の幕末時代劇物の二大巨塔とも言える、「るろうに剣心」と「銀魂」のテーマの一致性と、「銀魂」が「るろうに剣心」からどのような要素を引き継いだのかについて解説していきたいと思います。
剣心と銀時
それでは、「るろうに剣心」と「銀魂」の主人公である、緋村剣心と坂田銀時にはどの様な共通点があるのでしょうか?当然、銀魂がるろうに剣心から大きな影響を受けていたとすれば、銀魂の主人公坂田銀時にも緋村剣心の要素が受け継がれているはずですよね。ここでは緋村剣心と坂田銀時の共通点について紹介していきたいと思います。
剣心は維新志士、銀時は攘夷志士
剣心と銀時の共通点の一つに、幕末に活躍した剣客であることが挙げられるでしょう。しかし作中では剣心は維新志士、銀時は攘夷志士であったと説明されています。一体、維新志士と攘夷志士とは何が違うのでしょうか?
維新志士と攘夷志士って何が違うの?
簡単に説明すると維新志士と攘夷志士では、武力の先に目指しているものが違います。維新志士とはその名の通り、武力によって日本に維新をもたらし新しい世を作ることを目的として活躍している志士のことで、攘夷志士とは日本に入ってきた外国人(銀魂の世界では宇宙人の天人)を排する運動(攘夷運動)を行うべく戦う志士達が攘夷志士なのです。
互いに背負っているものは同じ
維新志士と攘夷志士という違いはあるものの、過去に自身の力では守りぬきたいものを守ることができなかった、という点は共通しており。緋村剣心と坂田銀時が互いに背負っているものは同じであると言えるでしょう。
仲間達との絆
同じ様な過去を背負っている剣心と銀時の二人ですが、作中を介して仲間に恵まれ、次第に自身の過去とも向き合っていくというところも一致しています。剣心には薫や弥彦などの神谷道場の仲間達が、銀時には新八や神楽という仲間がキーパーソンとして登場します。
同モチーフのキャラクター達
るろうに剣心と銀魂では、モチーフとなった時代が同じなため、同じモチーフを持つ登場人物が多々登場することとなります。史実の人物をモチーフとしたキャラクターたちは、既にその史実の人物にファンが存在する為、オリジナルキャラクターよりも幅広い層から受け入れられる事が多いのです。るろうに剣心と銀魂に登場するキャラクターでも、同じモチーフのキャラクターを好きになってしまう人も多いのではないでしょうか?
桂太郎
戊辰戦争で敵情視察や偵察任務として活躍した桂太郎ですが、銀魂とるろうに剣心でも活躍します。銀魂では、坂田銀時攘夷戦争の戦友桂小太郎として、るろうに剣心では緋村剣心の才能を見出した、頼れる上司桂小五郎として描かれています。
永倉新八
新撰組二番組組長として活躍した、剣客永倉新八もるろうに剣心と銀魂の両方にモチーフのキャラクターが登場します。銀魂では新撰組としてではなく、万屋を営む坂田銀時の部下志村新八として活躍します。普段はツッコミ役のキャラクターであるだけに、モチーフが新撰組の剣客であったことに驚いた方も多いのではないでしょうか?一方でるろうに剣心では北海道編にて、剣心の新たな仲間として登場します。こちらは銀魂の新八とは異なり優れた剣客として描かれており、永倉新八は銀魂とるろうに剣心とでは大きく扱いが異なるキャラクターと言えるでしょう。
斎藤一
新撰組副長・三番隊隊長として幕末期に活躍した斎藤一をモチーフとしたキャラクターも銀魂とるろうに剣心の両方で登場します。銀魂では真選組三番隊隊長斎藤終として登場し、るろうに剣心では緋村剣心の幕末期からのライバルとして登場します。
沖田総司
新撰組一番隊として活躍した剣客沖田総司をモチーフとしたキャラクターも銀魂とるろうに剣心に登場します。銀魂ではサディスティック警官こと沖田総悟として、るろうに剣心では沖田総司が剣心と幕末京都で斎藤一と共に戦ったシーンが描かれています。
高杉晋作
長州藩士として奇兵隊を創設し、倒幕運動を加速させた高杉晋作も銀魂とるろうに剣心に登場します。銀魂では主人公坂田銀時の過去の戦友でありながらラスボスとして暗躍するキャラクター高杉晋助として、るろうに剣心では剣心を見出した桂小五郎と共に討幕にむけて暗躍するキャラクターとして登場します。
史実とのずれ
更に銀魂とるろうに剣心では史実とのズレがある事も指摘できます。史実に忠実に作品を展開するのではなく、少年向けの漫画として、わかりやすい様に、ある程度の出来事をでっち上げてしまうというるろうに剣心の工夫は銀魂では更にブラッシュアップされて展開することとなります。
銀魂はさらにぶっ飛んでいる!!
るろうに剣心でも紀尾井坂の変などのある程度の改変がみられますが、銀魂では天人(宇宙人)によって幕府が開国をさせられたというとんでも設定が追加されており、ジャンプ漫画の時代もの漫画のスタンスが窺い知る事ができます。
新たな時代の中での葛藤は同じ
しかし、銀魂とるろうに剣心では時代の流れなどが大きく異なるものの、いずれも「過去の戦争で大切なものを守ることができなかったものが、戦後に大切なものを見つけ直す」というテーマは変わっていません。
るろうに剣心と銀魂のテーマ
それでは上記で解説した銀魂とるろうに剣心のテーマの一致性について更に詳しく解説していきたいと思います。
新しい武士道の形
銀魂とるろうに剣心に描かれている共通のテーマとして、まず「近代日本の新しい武士道の形」というものがあると考えられます。明治期では文明開花とともにこれまでの柔術や剣術といった武道が否定され、日本の武道は廃絶の危機に貧していました。そこでこれまでのプロのスタンスである殺人術を教えるという方向性から、自らの心を鍛えるために武道をするというスタンスに切り替わったのです。
壊す剣と守る剣
これまでの支配階級であった武士が廃されたことで、戦で人を殺す剣術ではなく武芸として自らの大切なものを守る剣術へと日本の剣術は発展しました。これは攘夷戦争で松陽を守ることができなかった自身を呪った銀時と、自身の前妻を惨殺してしまい不殺を掲げた剣心の両方に言えることではないでしょうか?
大元はヤンキー更生漫画!?
この様に、自身の過去の戦いのやり方に反省し、新たな仲間たちと交流することで、何かを壊すのではなく何かを守るために力を使う事を自覚するという作品展開は大元をたどればヤンキー漫画だったと考えられます。もしかしたらモチーフとして、今日から俺は!!の様なヤンキー漫画が元ネタとなっているかもしれませんね。
銀魂に出てくるるろうに剣心のオマージュ
銀魂ではるろうに剣心と作品テーマが近い事もあってか、るろうに剣心のオマージュが多々みられます。
クズ龍閃
ゲーム銀魂乱舞では銀魂のキャラクター沖田総悟が必殺技として「クズ龍閃」を使用します。これはもちろん、飛天御剣流奥義「九頭竜閃」のオマージュです。
志村新八「悪即斬!!」
銀魂の「おれあい篇」にて、志村新八が銀時と中身が入れ替わった土方十四郎万屋新社長のもとで働いていた際には「悪即斬」を掲げており、これは「悪即斬」のエフェクトからもるろうに剣心の斎藤一の「悪即斬」のオマージュであると考えられます。
るろ剣でもみられる他作品へのリスペクト
特に銀魂であった作品へのリスペクトが多いのですが、これはるろうに剣心でも見られるのです。例えば作中で相楽佐之助が「俺のものは俺のものお前のものも俺のもの」といった趣旨の発言をした際に剣心が「ジャイアニズム」と指摘するなど、明治という時代背景を無視したツッコミが多用されています。
るろ剣の工夫
いったいこのように他の作品のネタを使うことにどの様な意味があるのでしょうか?特にるろうに剣心のような時代ものの漫画だと、このようなネタはリアリティーを下げることにつながってしまう可能性もあるわけです。
シリアスな物語を俯瞰的にみせることができる!!
しかし、一方でこのようなネタを突っ込むことで、読者があまり作品に感情移入をすることなく、冷静に作品を読んでくれるというメリットがあります。クスクスと笑わせることで「あ、これは所詮漫画なんだな」読者に思わせ、作品を通して訴えたいテーマを論理的に受け止めてもらえるように工夫しているのです。
銀魂ではもっとパワーアップされた工夫が生きる!
このような、るろうに剣心の工夫を銀魂ではさらにパワーアップさせて使っています。るろうに剣心よりもさらに、このようなネタを多用することで、読者に作品を俯瞰的に見せることで、途中に挟まれる真面目なエピソードでは、よく読者の心に感動が突き刺さる様になっているのです。
まとめ
いかがでしたか?今回は同じ時代設定の「るろうに剣心」と「銀魂」を比較しながら解説していきました。特に銀魂はかなりでたらめな作品のように思ってしまいがちですが、細かく分析してみるとるろうに剣心という先代の工夫をうまく活かしていることがわかってもらえたと思います。この様に、1つの作品に縛られることなく、様々な作品を比較しながら分析してみるのも新しい発見があって面白いかもしれませんね。