2020年に劇場版が公開され、世界中で大ヒットを記録した『鬼滅の刃』。劇場版作品としての人気にとどまる事を知らず、テレビアニメーションとしても人気を博しており、今や日本中で本作の事を知らないという人を探す方が困難だと言えるぐらい浸透した作品になりましたよね。まさに、本作の主人公竈門炭治郎は『ドラえもん』のドラえもんや『クレヨンしんちゃん』の野原しんのすけなどと同じように、国民的アニメ主人公となったという事ができるでしょう。しかし、本作のストーリー構成やさまざまな設定を見てみると、本作のストーリーにおいて、最も主軸を成しているのは、炭治郎ではなかったりするのです。本作の中で最も成長が描かれた人物は炭治郎の他にいる!?という事実とその根拠を今回は紹介していきたいと思います。本作の真の主人公とも言うことができるキャラクターの紹介を通して、本作の裏に隠されたメッセージについて解き明かしていきましょう!
目次
隠された主人公は竈門禰?豆子だ!
結論から紹介すると、本作の隠された主人公は竈門禰?豆子です。作中では鬼になってしまっていることもあり、言葉を発したりするシーンが少ないキャラクターですが、実は彼女の行動を細かくチェックしてみると、主人公の炭治郎よりも断然成長しているキャラクターとなっているのです。
純粋な「お兄ちゃん頑張れ作品」でもありだが、、
もちろん、本作は純粋に炭治郎が主人公で、鬼になってしまった禰?豆子の為にお兄ちゃんが頑張るという「お兄ちゃん頑張れ作品」としても十分面白いのは事実です。
本作のテーマは兄弟愛ではない
しかし、本作のテーマは炭治郎が禰?豆子の為に頑張るという「兄弟愛」だけではないのです!本作は炭治郎だけでなく、禰?豆子にも注目することで全く異なる作者からのメッセージを受け取ることができる作品となっているということも、ぜひ知ってもらいたいです。
炭治郎の愛のデメリット
そもそも、炭治郎が禰?豆子を守り続けるという行為には明確にデメリットが存在します。それは、禰?豆子が一方的に守られて然るべき存在となってしまうことです。これでは炭治郎は成長しますが、逆に妹で鬼になってしまった禰?豆子は何もできなくて当然だし、努力はしなくていいということになってしまいます。
禰?豆子は兄に守られるだけの「薄い」キャラなのか?
つまり、ジャンプ作品において重要な「努力」が禰?豆子から欠けてしまうのです。もちろん、主役は炭治郎なのだから、禰?豆子は成長しなくていいだろと思う方もいるとは思いますが、女性漫画家である吾峠先生が、作中でも屈指の女性重要キャラである禰?豆子をここまで薄いキャラクターとして仕上げるでしょうか?
禰?豆子の為に炭治郎は成長する?
炭治郎にとって禰?豆子は守るべき存在であり、守るべき存在がいるからこそ、炭治郎は強くなるというのは非常に古典的で分かりやすい解釈ですが、「果たして、禰?豆子が本当に守られるべき存在としてのみ描かれているのか?」という点はしっかりと考え直す必要があるのではないでしょうか?
真のテーマは兄からの自立
実は禰?豆子に注目をしてみると、彼女が兄に守られているだけのキャラクターではないことがわかります。禰?豆子は鬼になりながらも、作中で幾度となく兄とは異なる判断をして、その度に成長をしてきたのです。つまり、本作は禰?豆子の視点から見てみると、自らのために自己を犠牲にしながら戦う兄を守るために自らも成長をするという、妹が兄から自立をする話でもあるのです。
禰?豆子が初めて炭治郎に反抗するシーンに注目
その根拠として、禰?豆子とは作中で幾度となく兄に対して反抗するシーンが描かれています。特にわかりやすいのが第一五巻半天狗戦です。
兄への依存状態からの脱却
半天狗戦ラストでは炭次郎が刀鍛冶達を救うか、禰豆子を日の光にさらしてしまうかの選択に迫られ葛藤します。その時に、炭次郎が行動するよりも早く禰豆子は炭次郎を突き飛ばし、自ら日の元に体を晒します。まさに、このシーンはこれまで炭治郎に完全に依存していた禰?豆子が初めてみずからの意志をもって行動したシーンであると言えるでしょう。
禰?豆子の心の成長と人間への回帰はシンクロしている
そして、このシーンを境に禰?豆子は鬼の弱点である日光を克服することとなります。つまり、一歩人間に近づいたです。この日光の克服という身体的な成長は、兄から自立して自分でものを考えることができるようになったという、精神的な成長がトリガーとなっていることは明白でしょう。
鬼は「弱い心」のメタファー
このように、作中において禰?豆子は自らの弱い心から脱却して、自らの判断で行動をするたびに少しずつ人間へ近づいていきます。これは本作において、鬼が弱い心のメタファーであり、逆にその弱い心を滅することで、人間へ回帰することができるということなのではないでしょうか?
全ての鬼が心の弱さを抱えている
実際、作中に登場する全ての鬼が、心のどこかに弱さを抱えています。虚言癖が抜けなかったり、何かに恨みを持っていたり、死ぬのが怖かったりと人間時代に心の弱さを持っていた者がやがて鬼になってしまう傾向にあるのです。
弱さの否定こそが鬼から回帰する方法
つまり、本作において鬼を滅するということは、我々が持っている心の弱さに打ち勝つということとも受け取ることができ、それを作中で最も実践しているのは禰?豆子なのです。実際に自ら鬼になってしまい、兄の元でなんの不自由もなく守られていた禰?豆子が兄を守るために、兄からの依存から自ら自立し、人間へ還るというのが本作のもう一つの筋書きであると言えるでしょう。
設定としての鬼からの回帰
もちろん、正しい設定として描かれている禰?豆子が鬼から回帰できた理由は他にあります。
禰?豆子が回帰できたのは、設定上は薬のおかげ
例えば、作中で最もわかりやすく示唆されている禰?豆子が鬼から人間へ回帰できた原因は、珠世の研究によってもたらされた薬のおかげであるというものです。むしろ、作品を純粋に読んで楽しむなら、この「珠世の薬」こそが禰?豆子が人間に戻れた直接の原因と考える方が正解です。
メッセージとしては「兄への依存からの脱却」が回帰の鍵?
しかし、これはあくまでも設定上の話です。基本的に物語作品というのは、表向きの設定とその設定に隠された作者のメッセージの二つがあります。「作者が禰?豆子が人間に戻るというストーリーの中で、我々に何を伝えたかったのか?」という作者からのメッセージについて考えていくことも大事ですし、その一つの答えとして挙げられるのが、まさに今回紹介した「兄への依存からの脱却」なのではないでしょうか?
なぜ本作は女性人気が根強いのか?
このように、本作は炭治郎自身の成長のみならず、禰?豆子の成長についても細かく描いている作品なのです。むしろ、作中の鬼と人間という相反する性質の両方になった禰?豆子こそが、作中を通して最もメッセージ性の強いキャラクターであると言えるのではないでしょうか?そのように考えると、なぜ本作が女性人気の高いキャラクターなのかわかる気もします。
禰?豆子というもう1人の主人公の存在
表向きの主人公の炭治郎と、もう1人の主人公禰?豆子、この2人のコントラストがあるからこそ、本作は男性のみならず女性にもウケがいいのでしょう。女性からしてみれば、「大切な誰かのために強くなろう!」というメッセージよりも、「自分を守ってくれる存在から自立する強い女の子の話」の方がグッと心に来るのですから。
肉体的成長ではなく、精神的成長で描かれる
それに、彼女の成長が肉体的なものでない点も注目です。男性の場合は「ギアセカンド」だとか「スーパーサイヤ人」だとか、肉体的な成長を好む傾向にありますが、女性はキャラクターの内面に注目するため、一つの出来事をきっかけにキャラクターの心がどのように強くなったのか?という精神的成長を好む傾向にあります。そのように考えると、本作の禰?豆子の成長は非常に女性好みのものであると言えるでしょう。
弱い心があるからこそ強くなれる
このように、『鬼滅の刃』は我々に弱い心があるからこそ、そこから脱却するために強くなれるというメッセージを与えてくれます。何かを怖がったり、人のせいにしてしまったりと我々読者にも弱い心がきっとあるはずです。しかし、その心の弱さを禰?豆子のように打ち砕くことによって、我々はいつでも強くなり続けることが出来るのかもしれません。
少年漫画と少女漫画の融合という面白さ
本作の主人公、竈門炭治郎は物語の序盤から妹の為に戦っており、逆に精神的な成長が描かれることがありません。むしろ、心の弱さに誰よりも葛藤して、精神的な成長を遂げたのは禰?豆子の方なのです。このような、純粋に修行によって力が強くなっていく少年漫画チックな炭治郎の成長と少女漫画チックな禰?豆子の成長という二つのストーリーを同時に描いているという点が本作んの一つの特徴であると言えるでしょう。
まとめ
いかがでしたか?今回は本作『鬼滅の刃』における、もう1人の主人公とも言うべき、竈門禰?豆子について紹介をしていきました。本作は禰?豆子以外にも数多くの魅力的なキャラクターが存在していますので、是非とも炭治郎以外の多くのキャラクターに目を向けてみてくださいね!