鴨志田一によるライトノベル作品『青春ブタ野郎シリーズ』に登場し、梓川咲太たちを大きく取り巻く「思春期症候群」。思春期の少年少女が抱える感情が不思議な現象として現れる都市伝説のようなものとして描かれており、その正体や謎が気になるばかりです。これまでに登場した思春期症候群の症状はどんなものか、また何が原因で発症したのなど、その正体や謎について考察していきましょう。
目次
『青春ブタ野郎シリーズ』に登場する思春期症候群とは?
出典: 青春ブタ野郎はバニーガール先輩の夢を見ない ©鴨志田 一/KADOKAWA アスキー・メディアワークス/青ブタ Project
思春期症候群は作中で都市伝説のようなものとして扱われており、不思議現象として様々な症状を発症しています。多感な少年少女たちが様々な悩みや想いを抱えることで、思春期症候群を患ってしまい、どのように戦い解決していくのかが大きな見所に。『青春ブタ野郎シリーズ』では登場するキャラクターのいずれもが思春期症候群で悩まされていますが、それぞれどのような症状が発現しているのか、詳しく見ていき考察していきましょう。
桜島麻衣が発症した思春期症候群
出典: 青春ブタ野郎はバニーガール先輩の夢を見ない ©鴨志田 一/KADOKAWA アスキー・メディアワークス/青ブタ Project
『青春ブタ野郎はバニーガール先輩の夢を見ない』でヒロインを務めるのが桜島麻衣。幼いころから芸能活動を始めており、売れっ子芸能人として活躍しています。しかしマネージャーである母親がグラビアの仕事を契約したことで、芸能活動を一時休止するのでした。ただ高校3年生になると、水族館で自分が注目されていないことに気づき、徐々に存在感だけでなく誰からも認知されなくなり、忘れられていくようになります。
自分を知らない世界に行きたいと願った
出典: 青春ブタ野郎はバニーガール先輩の夢を見ない ©鴨志田 一/KADOKAWA アスキー・メディアワークス/青ブタ Project
桜島麻衣が思春期症候群を患い、誰からも認識されなくなるという症状が発現した理由は、幼いころから芸能界で注目を浴び続けたことが一つの原因になっています。自分を知らない世界に行きたいという願望を持っており、同時に芸能界から離れたことによって、思春期症候群が発症してしまうのでした。それは人から認知されなくなるだけでなく、記憶からも存在が消えていくこになり、次第に「自分が消えていく」ことへの恐怖へと変わります。
梓川咲太の空気を読まない告白で改善される
出典: 青春ブタ野郎はバニーガール先輩の夢を見ない ©鴨志田 一/KADOKAWA アスキー・メディアワークス/青ブタ Project
唯一手を差し伸べてくれたのが梓川咲太で、彼自身が思春期症候群と戦った過去を持っていることから協力を申し出ました。やがて梓川咲太自身も桜島麻衣のことを忘れてしまいますが、双葉理央からもらったアドバイスによって、全校生徒の前で一世一代の愛の告白を実行。それまで存在が空気のように扱われていた桜島麻衣でしたが、梓川咲太の告白で無理やり存在を認識させたことで、世界は桜島麻衣を取り戻すこととなります。
古賀朋絵が発症した思春期症候群
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『青春ブタ野郎はプチデビル後輩の夢を見ない』でヒロインを務めるのが古賀朋絵。高校入学と同時に福岡からやってきた少女はクラスの中心となるグループに属する一人でしたが、友達を失いたくないという想いから、無理に話を合わせていきました。しかしリーダーの玲奈が好意を寄せる前澤先輩から告白を受けてしまい、グループから追い出されるのではないかという恐怖から、同じ日をやり直す思春期症候群を発症します。
八方美人ぶりが思春期症候群の引き金になる
出典: 青春ブタ野郎はバニーガール先輩の夢を見ない ©鴨志田 一/KADOKAWA アスキー・メディアワークス/青ブタ Project
古賀朋絵が思春期症候群を発症した原因は、友人グループとの関係を維持したいという想いと、過去の自分とのコンプレックスが大きなウェイトを占めています。自分が輪の中に居続けるため、友達が好意を寄せている相手から告白を受けるのはあり得ないということ。そして高校入学を機に生まれ変わった自分を大切にしたいということからきています。つまりは、他人の顔色を窺い続けることで自分の居場所を創り出しているのです。
自分で未来を決定する勇気を持った古賀朋絵
出典: 青春ブタ野郎はバニーガール先輩の夢を見ない ©鴨志田 一/KADOKAWA アスキー・メディアワークス/青ブタ Project
自分の居場所を守り続けるために、古賀朋絵は梓川咲太と1学期が終わるまで偽の恋人関係になります。しかし関係が終わる一学期の終業式になると、もう一度同じ日が繰り返しループされてしまうのでした。古賀朋絵は偽の関係とはいえ梓川咲太と長い時間を共有したことにより、本物の好意を抱いてしまいます。関係が終わることによって、再び孤独になってしまうのではないかという恐怖から思春期症候群を発症。しか梓川咲太から勇気を振り絞ることを教わったことで、思春期症候群から解放されます。
双葉理央が発症した思春期症候群
出典: 青春ブタ野郎はバニーガール先輩の夢を見ない ©鴨志田 一/KADOKAWA アスキー・メディアワークス/青ブタ Project
『青春ブタ野郎はロジカルウィッチの夢を見ない』でヒロインを務めるのが双葉理央。梓川咲太の数少ない友人である彼女は、同じく彼の親友である国見佑真に好意を寄せていました。しかし国見佑真はすでに上里沙希と付き合っており、片思いとしてずっと想いを胸にしまい続けています。そんな双葉理央がある日に一つのSNSアカウントが引き金となって、ドッペルゲンガー現象を引き起こしてしまうのでした。
一人になる孤独感がドッペルゲンガーを生み出す
出典: 青春ブタ野郎はバニーガール先輩の夢を見ない ©鴨志田 一/KADOKAWA アスキー・メディアワークス/青ブタ Project
双葉理央の交友関係は梓川咲太と似たようなもので、限られた人物しかいません。梓川咲太、その親友である国見佑真くらいのもので、とりわけ国見佑真に対しては好意を寄せていました。しかし前述したように、国見佑真にはすでに付き合っている彼女がいます。さらには梓川咲太も桜島麻衣と関係を築き、これに双葉理央は「誰も相手にしてくれないのではないか」という孤独感を覚えてしまい、思春期症候群を発症させてしまうのでした。
自分と向き合い認めることの難しさ
出典: 青春ブタ野郎はバニーガール先輩の夢を見ない ©鴨志田 一/KADOKAWA アスキー・メディアワークス/青ブタ Project
普段の生活では地味に過ごしているものの、SNS上では新しい自分を作って演出することができます。これが双葉理央のドッペルゲンガーを生み出した原因であり、2人は同じ外見ながら全く別の性格でした。しかし2人とも双葉理央であり、積極的な人格と消極的な人格のどちらも自分であると受け入れたことで、思春期症候群は解消されます。ただもう一人の自分を受け入るという行為はとても難しく、前向きに諦めることができるまで、双葉理央は苦悩し続けました。
豊浜のどかが発症した思春期症候群
出典: 青春ブタ野郎はバニーガール先輩の夢を見ない ©鴨志田 一/KADOKAWA アスキー・メディアワークス/青ブタ Project
『青春ブタ野郎はシスコンアイドルの夢を見ない』でヒロインを務めるのが豊浜のどか。桜島麻衣の異母妹であり、売り出し中のアイドル「スイートバレット」のメンバーである彼女は、自他ともに認めるシスコンでもありました。そんな彼女が桜島麻衣の住むマンションにやってくると、中身が入れ替わってしまうという思春期症候群に見舞われることに。やがて互いの役割を全うしますが、互いに課せられている期待と重圧の重みを知っていきます。
母親を喜ばせたい一心だった豊浜のどか
出典: 青春ブタ野郎はバニーガール先輩の夢を見ない ©鴨志田 一/KADOKAWA アスキー・メディアワークス/青ブタ Project
桜島麻衣と豊浜のどかの関係は異母姉妹という複雑な関係。異母妹である豊浜のどかは桜島麻衣に憧れとコンプレックスを抱いていました。作中では2人の母親による争いが起こっており、その代理戦争として芸能界で活躍する2人に焦点が当てられています。豊浜のどかは桜島麻衣になることで自分の母親を喜ばせることができると考えますが、入れ替わった後に桜島麻衣として過ごすと、途方もないほどの周囲の期待や重圧を感じるように。さらにCM撮影では過呼吸を起こしてしまうほど、精神的に追い詰められるのでした。
自分は自分であることを認識する
出典: 青春ブタ野郎はバニーガール先輩の夢を見ない ©鴨志田 一/KADOKAWA アスキー・メディアワークス/青ブタ Project
比較されながらも母親を喜ばせたい一心で頑張ってきた豊浜のどかでしたが、どう頑張っても桜島麻衣には慣れないことを悟ります。同時に母親が娘をアイドルの道に進ませた心境を理解すると、彼女の思春期症候群は改善の兆しが見えるようになるのでした。やがて豊浜のどかは「自分の道を歩いて成功を掴み取れば、母親を喜ばせることができる」と理解して、自我を確立することとなります。
梓川かえでが発症した思春期症候群
出典: 青春ブタ野郎はバニーガール先輩の夢を見ない ©鴨志田 一/KADOKAWA アスキー・メディアワークス/青ブタ Project
『青春ブタ野郎はおするばん妹の夢を見ない』のヒロインを務めるのが梓川かえで。作中ではSNSなどで本人の誹謗中傷の書き込みを見ると、自身の身体に傷ができるという思春期症候群を患っていました。それ以来、外に出ることなく家に引きこもる少女となった梓川かえででしたが、見ずから引きこもりを脱却しようと目標を立てます。しかし頑張って家を出ようとしても、ストレスで発熱やあざ、傷ができるといった症状が見られるのでした。
梓川かえでは梓川咲太の提案で生み出された人格
出典: 青春ブタ野郎はバニーガール先輩の夢を見ない ©鴨志田 一/KADOKAWA アスキー・メディアワークス/青ブタ Project
梓川かえでという存在は、彼女が13歳の時に解離性障害が発症したことで生まれた別人格になります。しかし兄である梓川咲太は「かえで」として生きるように提案し、11月26日まで存在し続けました。思春期症候群により身体が傷つきながらも、一生懸命に家の外へ出ようとする梓川かえで。しかしこれは、梓川咲太に「妹の夢を叶えた」と胸を張ってほしいという想いがあっての行動で、目標が達成されると消滅して元の「梓川花楓」となります。
梓川花楓は思春期症候群を克服したのか?
出典: 青春ブタ野郎はバニーガール先輩の夢を見ない ©鴨志田 一/KADOKAWA アスキー・メディアワークス/青ブタ Project
梓川かえでは社会復帰を目指して懸命に行動するうちに、引きこもりだからとバカにされる恐怖よりも、外に出られないという恐怖が勝っていきます。そのため思春期症候群を払しょくするようになり、「かえで」の人格は消滅することとなりました。ただ記憶を共有していない以上、梓川花楓は2年前と同じ状態であるため、少しは前向きであるものの、思春期症候群と戦っていく必要性があるのかもしれません。
牧之原翔子が発症した思春期症候群
出典: 青春ブタ野郎はバニーガール先輩の夢を見ない ©鴨志田 一/KADOKAWA アスキー・メディアワークス/青ブタ Project
梓川咲太の初恋相手であり、彼の人生に大きな影響を与えたのが牧之原翔子。『青春ブタ野郎はハツコイ少女の夢を見ない』『青春ブタ野郎はゆめみる少女の夢を見ない』のヒロインを務めています。梓川咲太が峰ヶ原高校に入学したのは牧之原翔子に会うためでしたが、名簿を確認しても在籍記録などが一切ありませんでした。しかし年上であるはずの牧之原翔子は、古賀朋絵と一件が終わると中学生の姿となって現れます。
心臓に重い病気を患っていた牧之原翔子
出典: 青春ブタ野郎はバニーガール先輩の夢を見ない ©鴨志田 一/KADOKAWA アスキー・メディアワークス/青ブタ Project
中学生の姿で出会った牧之原翔子は、生まれながらにして心臓に病気を持っていた少女でした。しかし梓川咲太が過去に出会ったという牧之原翔子とは同一人物であることが明らかになり、過去に出会ったのは彼の心臓を移植された牧之原翔子でした。彼女は梓川咲太の命を救おうと、彼と出会わない未来を作り出そうとします。しかし梓川咲太によって過去が改変されると、中学生の牧之原翔子は無事に心臓移植を受けることができ、療養のために沖縄へ引っ越しするのでした。
思春期症候群を患っていたのかは謎
出典: 青春ブタ野郎はバニーガール先輩の夢を見ない ©鴨志田 一/KADOKAWA アスキー・メディアワークス/青ブタ Project
牧之原翔子が思春期症候群を患っていたのかどうは不明です。しかし過去に戻って未来を改変するというよりも、現在から未来を改変する方が現実的で、古賀朋絵とのエピソードを見れば分かるでしょう。梓川咲太は無事に1学期を終了したと思いきや、目覚めると6月27日に戻っていました。「ラプラスの悪魔」の話を思い出せば、牧之原翔子は小学生だったころから思春期症候群を患っていて、未来の梓川咲太に干渉していたと考えられます。
梓川咲太が発症した思春期症候群
出典: 青春ブタ野郎はバニーガール先輩の夢を見ない ©鴨志田 一/KADOKAWA アスキー・メディアワークス/青ブタ Project
『青春ブタ野郎シリーズ』において、様々な思春期症候群と戦い解決に導いたのが主人公である梓川咲太。彼もまた思春期症候群を患っており、胸に3本の切り裂かれたような傷痕が残されています。それまで症状は見られませんでしたが、父親と梓川花楓の再開、牧之原翔子と病室で出会った時に再び発症しており、痛みを伴いながら出血するのでした。
喪失感が大きな引き金になっている
出典: 青春ブタ野郎はバニーガール先輩の夢を見ない ©鴨志田 一/KADOKAWA アスキー・メディアワークス/青ブタ Project
梓川咲太が一度目に思春期症候群を発症したのは、梓川花楓がいじめに遭っている時。そして2度目は梓川かえでがいなった時です。いずれも梓川咲太は強いストレスを感じており、彼自身を理解する者がいなくなるかもしれないという喪失感を抱いていました。一度目では「かえで」が認めてくれる存在となり、二度目は牧之原翔子がかけた言葉で現実を受け取ることができ、症状は治まっていきます。
存在してはならない2つの心臓が引き金になった
出典: 青春ブタ野郎はバニーガール先輩の夢を見ない ©鴨志田 一/KADOKAWA アスキー・メディアワークス/青ブタ Project
『青春ブタ野郎はハツコイ少女の夢を見ない』では、梓川咲太は三度目の思春期症候群を発症している様子があります。これは牧之原翔子に移植されたはずの彼の心臓が、同じ世界に2つ存在してしまったことが原因で、それによって痛みと出血が発生するのでした。本来で貼れば同一世界線にあってはならないものでしたが、最終的に事態は収束していき、事なきを得ることになります。
胸の傷は家族を表している?
出典: 青春ブタ野郎はバニーガール先輩の夢を見ない ©鴨志田 一/KADOKAWA アスキー・メディアワークス/青ブタ Project
牧之原翔子の例を除いて、梓川咲太の胸にある傷は家族が関係した際に症状が見られます。自身が思春期症候群を患ったのは、妹の傷は自傷行為だろうと本気で取り合ってくれなかった両親を受け入れられなかったのが大きいでしょう。それぞれ父・母・花楓の3人分を示しており、自分のことを理解してくれなかったという想いが、胸の3本の傷として生まれたのかもしれません。
思春期症候群の正体は何なの?
出典: 青春ブタ野郎はバニーガール先輩の夢を見ない ©鴨志田 一/KADOKAWA アスキー・メディアワークス/青ブタ Project
桜島麻衣や古賀朋絵、双葉理央の例を見れば、多感な思春期の少年少女が抱える心の闇が、不思議な現象として発現したものになります。それぞれの願望であるものの、同時に成長過程における試練のようなものとも見ることができるでしょう。桜島麻衣は自分の母親との話し合い、古賀朋絵は告白をしっかり断る、双葉理央は自分を受け入れました。それまでは子供のように見て見ぬふりや無視をしていましたが、現実と向き合って「大人の対応」を見せたことで改善されます。つまりは、思春期症候群を克服することは大人の階段を上るということなのかもしれません。
まとめ
出典: 青春ブタ野郎はバニーガール先輩の夢を見ない ©鴨志田 一/KADOKAWA アスキー・メディアワークス/青ブタ Project
『青春ブタ野郎シリーズ』の物語を追っていけば、キャラクターの魅力に虜になると同時に、ストーリーの奥深さを知ることになります。特に誰もが経験したようなこと、子供から大人へと成長する様が見て取れ、思春期症候群を経てどのように変化していくのかを注目すると、より面白く感じるのではないでしょうか。ぜひ原作全シリーズを読んでもらって、アニメ・劇場版も隅々まで見渡してみてください。