これまでにない残酷な描写やアクロバティックな戦闘描写で人気を博した進撃の巨人ですが、『進撃の巨人』が一から全ての革新的な要素を発明したわけではありません。当然、進撃の巨人以前に発表されたアニメーションや漫画ゲームの影響を大きく受けているはずです。今回は『進撃の巨人』の設定やテーマがどのような作品の影響受けて出来上がったのか、またそのことを考察することで作者の意図は何なのかということや、進撃の巨人が従来の作品から何を学びとったのか?について深く考察していきたいと思います。
巨人大戦と火の七日間
ユミルから始まったとされる巨人の歴史の中で最も悲惨な結果を招いたとも言えるこの巨人大戦ですが、この巨人大戦にも着想の元ネタとしてジブリ作品の『風の谷のナウシカ』に出てくる「火の7日間」の存在があるのではないでしょうか?これから紹介する『風の谷のナウシカ』の「火の七日間」には進撃の巨人の『巨人大戦』との関連性が多く見られます。『風の谷のナウシカ』自体日本の漫画界に大きな影響を与えた作品ですので、進撃の巨人の作者の諌山先生も参考にした可能性が高いと思います。それでは『進撃の巨人』の「巨人大戦」と『風の谷のナウシカ』の「火の7日間」を実際に比べて考察してみましょう。
「火の七日間」とは?
「火の7日間」はかつて高度な文明を発展させた人類が巨神兵という強力な兵器を発明したことによって引き起こされたとされる惨劇です。ナウシカ劇中でも一体どのようにして「火の7日間」が引き起こされたのか?またその「火の7日間」の詳細はどのようなものであったのか?といった事は細かくは語られていません。しかし、『風の谷のナウシカ』の「火の7日間」の一番の肝は、このよくわかっていないというところなのです。かつて「火の7日間」と言われた悲惨な事件があり、文明は大きく後退してしまったという所までは分かっている。しかし、文明が荒廃してしまったため、詳しい記録やかつての痕跡を分析することもままならない状況に追い込まれ、あくまで神話として少し飛躍してしまった表現でしか語り継がれていないというのが、当時の宮崎駿が挑戦した文明が崩壊した後の人々がどのように歴史を理解するのか?といったところを、リアリズムを突き詰める形で表現してみようという実験を行った作品が、この『風の谷のナウシカ』なのです。
進撃の巨人との共通点
前記した「火の7日間」を見てみるとわかるように、進撃の巨人の巨人対戦との共通点が多々見られます。進撃の巨人でも、過去に何があったのかを明確に記録している人物はタイバー家などの限られた人物のみにとどまり、一般市民は巨人大戦をいわば神話のように湾曲された形で理解していました。これらの過去に何があったのかわからないが、その何かのせいで人類の文明は大きく後退したという、一般市民の考えを描写すると言うのは宮崎駿のナウシカから始まった、今までにない文明が崩壊した後、人々はどのように生活するのかといったことをリアルに映し出す実験の延長上にある表現なのではないでしょうか?
「火の七日間」と「巨人大戦」の元ネタは「暗黒時代」!!
なぜ『進撃の巨人』の「巨人対戦」や『ナウシカ』の「火の7日間」がここまでリアルに、そして絶望的に表現されているのでしょうか?それは過去の歴史から検証した徹底的な現実主義の設定志向にあるのだと思います。実は、我々の世界も一度文明が大きく後退した時代があります。西洋の「暗黒時代」と言われる期間なのですが、高度な文明を持っていた巨大な帝国ローマ帝国が崩壊した後、異民族のゲルマン人の侵入や資材の枯渇によって西洋の文明は大いに後退しました。この時からルネサンスが起こるまでの西洋の歴史は、それ以前のローマ時代と比べて大きく技術的にも思想的にも後退しています。これらの事実は実際の歴史的な書物や建築物として現在の我々も見ることができます。宮崎駿はこれらの歴史的事実を研究し、「火の7日間」を西洋の暗黒時代をベースに描くことでリアリティーに富んだ文明崩壊を描くことができたのではないでしょうか?そして彼の趣向は『進撃の巨人』にも生かされることとなります。進撃の巨人の「巨人大戦」は宮崎駿が膨大な西洋の歴史的事実から描き出した「火の7日間」のリアリティーを正確に受け継ぎ、かつ作者独自の新しい表現を加えた設定なのです。
漫画・アニメーションならではの打開策『巨人の格闘技』
これまでの巨大生物が戦闘する映像、例えば「ゴジラ」や「ウルトラマン」といった怪獣ものの特撮映画には1つの弱点があることが知られていました。それはアクロバティックな動きをすることができないという点です。結果としてこれらの作品は仮面ライダーのような等身大の特撮作品に人気を奪われてしまう結果となってしまいました。しかし、進撃の巨人ではこのアクロバティックな動きができないという怪獣ものの限界を覆すことに成功しました。理由の一つはアニメーションにしたことで、怪獣の造形をした着ぐるみでは不可能だった俊敏な動きを描写することができた点。もう一つは巨人に格闘技の技を使わせることによって違和感なくアクロバティックな攻撃を巨大生物にさせることができたという点です。ウルトラマンのように遠距離からのスペシューム光線や簡単な殴る蹴るといったアクションに縛られることなく、格闘技の技をベースとしたスムーズな試合進行を見せることで、怪獣ものの映画では切っても切ることができなかったアクロバティック性の欠如を克服することに成功しました。
進撃の巨人の革新的なところをマニアックに分析するまとめ
いかがでしたか?かなりマニアックな内容となってしまいましたが、もう通常の『進撃の巨人』の記事は見飽きた!!と思っていたちょっぴりアニメ上級者の方々にはおもしろい記事だったと、思っていただけていれば幸いです。アニメーションを筆頭とした映像作品や漫画は決してそれ単体で出来上がると言う事は無いので、その作品が一体何から影響を受けて、その背後にはどんな歴史や学問があるのだろうか?などと考える事は非常に大切なことだと思います。今回紹介した考察はあくまでも一つの意見に過ぎないので、もっと『進撃の巨人』を知りたい!!という方はぜひ他の方の考察記事も覗いてみてはどうでしょうか?北欧神話との関連性や他のアニメとの影響等、多くの考察と魅力に溢れた作品ですので、調べれば調べるほど10月から始まるアニメ『進撃の巨人 The Final Season』が面白くなると思いますよ。