「ビックコミックスピリッツ」で連載中の人気漫画「アオアシ」。漫画人気とJリーグの選手からも高い評価受けている本作品ですが、2022年4月にはアニメが放送開始が発表されました。そこで今回はこの漫画の主人公、青井葦人に焦点を当てて彼の特徴や成長などを解説していきたいと思います。(ネタバレ注意です!!)
目次
主人公 青井葦人について
この作品は、Jリーグの下部組織であるユース、つまり16歳~18歳の彼らが高校の部活動ではない、プロにより近いユースという場所が舞台になります。そんな所とは無縁の愛媛県の地元のサッカー部に青井葦人(あおいあしと:敬称はアシト)はいました。アシトは弱小クラブのFWとして、誰よりも走り、こぼれ球を拾い、点を取る、技術は拙いですが、その分余りあるガッツで活躍する選手でした。そこに、「ある能力」を垣間見た東京C(シティ)・エスぺリオンユースの監督、福田達也(ふくだたつや)にユースのセレクションを受けに来るよう勧められます。
青井葦人の驚異的な能力とは?
1度目は愛媛県双海町(ふたみちょう)の砂浜、2度目は黒田たちとケンカした教室の黒板で、アシトは試合のゴールシーンの時の敵味方合わせて22人の正確な位置を書き記しました。フィールド上にいながら、空を飛ぶ鳥が上から見ているように全体を見渡せる能力。バルセロナのシャビのようだ、と表現されていましたが、これこそが青井葦人の能力、大いなる俯瞰のイメージ、EAGLE EYE、など作中では様々な表現がされていますが、「目がいい」、この一点において彼はオンリーワンの才能を持っていたのでした。
葦人の能力の理由
なぜアシトがこの眼の能力を獲得したのか。その理由の一つにあるクセがあります。アシトにはピンチの時ほどフィールドを見渡して心を落ち着かせるクセがあります。それはピンチでも何とか打開できる隙はないかを探す、あきらめない彼の心、精神性からくるものであり、この能力の獲得にはアシトのメンタリティが必要不可欠だったといえますね。加えて、アシトは幼少期から母の店でお客さんにぶつからないように、店の通路をドリブルして遊んでいました。周りを見ながら、ボールも見てドリブルする。この経験も獲得に活きていると思われます。
葦人の成長①
ユースセレクション合格後、初めての紅白戦で、アシトは新たな壁にぶつかります。それはアシトの足元の技術の低さやトラップの精度の悪さ、そして何より「個人戦術」の欠如でした。「個人戦術」とは、言い換えると思考力、フィールド上でその場の状況に合わせてどんなサッカーをするべきなのかを考えることで、これは長くエスペリオンで育った昇格組が当たり前にできていることでした。周りのチームメイトがどんなことを考えてプレーしているのか理解できない。これは致命的なことであり、アシトの特異な才能も感性による部分が大きく、試合で自分が機能しないという現実を突きつけられてしまいます。
葦人の成長②
まずは「止めて、蹴る」技術。日課の深夜の自主練でアシトはただそれだけを練習しました。来たボールを次にどこへでも蹴れるようにオープンに止める、この一連の流れが洗練されることにより生まれる余裕と数秒は、俯瞰の眼を持つアシトにとってプレーの幅を大きく広げるものでした。加え、個人戦術の課題は、黒田と朝利との左ライン、まずはこの3人間でトライアングルを形成し、相手がどうしてほしいか、自分はどこにいればいいかを考えること、アイコンタクトで理解しようとすることで、アシトに欠けていた思考力を身に着けることに成功します。
監督福田達也の大いなるビジョン①
サッカーは3人でボールを運んでいくスポーツ。ガン引きのチームにだって、意識を共有した3人ならばどんな相手でも通用する。この3人で作るトライアングルを広げてゴールへの向かっていく、目を見て通じ合った仲間と共にアシトは新たな「サッカー」を覚えます。技術と思考力を身につけたアシトはユースBチームで、公式戦2試合で2得点2アシストと大活躍を収めます。ここまでの大成長を遂げたアシトに、監督福田はこう告げます。「アシト。DFに転向しろ。」
監督福田の大いなるビジョン②
このコンバートの構想は、マンガ7巻62話で明らかになりますが、福田達也は初めてアシトと話した双海町の砂浜で、ここまでを思い描いていたことがわかります。ユースで初めての紅白戦で伊達(だて)コーチに発破をかけさせたのも、すぐに答えを言わず考えさせ自分で習得させるコーチングをしたのも、すべてはこのコンバートのため。だから、始めはサッカーの基礎を教えるためにそのままFWで起用し、それらが備わったタイミングで転向を告げる。監督福田の理想のSB(サイドバック)にするため、アシトを世界で通用させる選手にするための残酷な判断は、この漫画が始まった1話で、もうすでに決定していたことでした。
DFとしての青井葦人①
アシトの得点へのこだわり、FWとしての矜持、その全てを取り上げられたような福田の言葉にアシトは動揺し寮を飛び出します。花がこれを連れ戻しますが、アシトのショックは大きく、本職ではないDFで嫌々プレーさせられます。DFに転向したアシトは、当たり前ですがそれまでやってこなかったディフェンスに苦しみます。当然FWだったアシトのディフェンス能力は低く、DF特有の「絞り」や危機感といった基本的な部分から学ばなければいけませんでした。加え、攻撃できないポジションの苛立ちも相まって、とうとうベンチ外へと追いやられてしまいます。
DFとしての青井葦人②
世界一のFWになるために、俺が点を取るために、そしてプロになるために、アシトの心の真ん中にあった芯は、間違いなくFWだからできることであり、彼の思い描く姿は点を取るエース像でした。それでもベンチ外のアシトが腐らずにDFを練習していたのは、周囲の影響でした。それは少なくともチームメイトの足手まといにならないように、迷惑をかけないように、嫌いな守備でもするんだという思いでした。
DFとしての青井葦人③
アシトは海藤杏里(かいどうあんり)の勧めで、一流プレーヤー栗林晴久(くりばやしはるひさ)のよくしている「首振り」の練習をします。ボールを受ける直前に振る、受けてすぐに振る、ボールが来ない時にも振る、これらを無意識にしている栗林は、視野が広く、ボールを受け取った瞬間には最も適切なプレーを選択していました。ベンチ外のアシトは約1ヶ月もの間、これを続けました。「止めて、蹴る」の時もでしたが、アシトのこれを習得するまで徹底的にやり続けるという強靭な精神力により、「首を振る」技術を自然とできるようになります。
コーチング
自然と首を振り、全体を見ることをできたアシトは、前線にいないからこそ、後ろから前の選手の「目」になって、的確な指示を出せるようになりました。これとアシトの俯瞰の眼を合わせることにより、守備では的確なポジションに仲間を移動させボールを奪取し、攻撃では前線の選手を動かしながら、ボールを繋ぎゴールを取る。これはアシトがDFに転向したからこそ、FWではできないような指示(コーチング)ができるようになったのであり、DFという場所においてアシトの真価が発揮されます。そして、ここまで成長したアシトは、いよいよAチームに昇格を果たします。
Aチームへ
ユースAチームの左CB(センターバック)の阿久津。その相方的存在の左SB。アシトがDFをするにあたって、一番参考にして、連携を取らなければいけない相方が阿久津渚(あくつなぎさ)でした。彼と犬猿の仲だったアシトは、またもやここで阿久津という壁にぶつかります。ここまでを想定して、序盤からの阿久津との不仲な関係を構築していたことを考えると、これはもはやさすがとしか言いようがありません。Aチームに昇格したアシトにはどんな試練が待っているのか、ぜひアニメで、漫画でご覧になってください。
まとめ
いかがだったでしょうか。今回は青井葦人の能力と福田達也の狙いについて解説しました。今回の記事は漫画では12巻までの部分ですが、連載開始からどこまでを構想として持っていたんだろうか疑問に思うほど、「アオアシ」は話の構成がよくできた漫画だと思います。アシトのコンバート、阿久津との不仲、そして成長するアシトに感化されていくチームメイトたち。アシトが成長するとその度、また高い壁が現れ、またそれを乗り越える。この繰り返しで身につけた武器で強敵と戦っていく、最高におもしろい漫画です。