まもなくアニメオンエア直前の忍者冒険浪漫活劇『地獄楽』ですが、中国に源流を持つ陰陽五行思想に物語の軸足を置き、しかも時代物ということもあって、昨今の異世界転生譚とは異なり、物語の骨子を理解するにはある程度の予備知識があった方が作品をより楽しむ事ができると考え、この記事を書いています。もちろん、何も知らなくても十二分に楽しむ事のできる作品ではあるのですが、どんな物語でも、何も知らないよりも知識があった方が楽しめる度合いが高くなると思うのです。もっとも、そう考える事自体がオタク的なのかも知れませんがｗ。まあ『知るは楽しみなり』とも申しますし、どんな知識であっても知っておいて損はないと思うのですよ。そんなわけで、ひとつお付き合いいただければ幸いです。
目次
山田浅エ門（やまだあさえもん）
佐切の生家であり、代々斬首と試し切りを生業とする一門です。「山田浅エ門」は当主が名乗る名であり、同時に家名（名字）でもあります。試一刀流（ためしいっとうりゅう）という剣の流派を持ち、士遠や付知、仙汰はその門弟に当たります。モデルになったのは実際に斬首を生業としていた『山田浅右衛門』という、江戸時代に実在した一門です。物語中で描写される「山田浅エ門」家が非世襲制であることや、「人斬り浅」「首切り浅」と呼ばれたこと、腰者奉行の支配下にはあったものの幕府からは浪人扱いされて確たる俸禄を受けていなかったこと、副業として刀剣鑑定や死体を用いた刀剣の試し切り、死体を原料とする製薬、果ては遊女の約束用に死体の小指を売却していたことなどは、すべて実在の「山田浅右衛門」の逸話に基づいています。
御様御用（おためしごよう）
『地獄楽』では「山田浅エ門」の生業としての斬首のことを指しますが、もともとは「刀剣の試し切り」のことを指した言葉でした。江戸時代初期には「生き試し」といい、死罪を申しつけられた罪人が生きたまま刀剣の試し切りに用いられたそうです。史実の「山田浅右衛門」は江戸初期の勃興ですので、「生き試し」を行っていた可能性は大いにあるわけです。その後、試し切りには死体を用いるようになりましたが、試し切りばかりではなく死罪人の斬首も依頼されるようになり、それが『地獄楽』での首切り御用という「山田浅エ門」一門の生業になったわけです。
石隠れ衆（いわがくれしゅう）
伊州（伊賀）の忍び里のひとつで、所属する忍者はそれぞれが超人的な体術の持ち主です。画眉丸はその頂点に君臨した忍者でしたが、足抜けしようとしたために里長の罠にはめられ、捕縛されてしまいました。男は幼少期から命がけの修行を叩き込まれ、その過程で多くのものが死に、一人前の忍者となってからは、個としての意志は持たずに、蟻や蜂のような「群体」として命を捧げることを求められ、女はある一定の年齢になると強制的に娶らされ、ひたすら子供を産む道具として消費されるという過酷な環境です。そりゃ心も荒むってもんですわ。
公儀御免状（こうぎごめんじょう）
どのような悪逆非道な罪状を持つ死罪人であっても、それを持っていれば無罪放免で大手を振って自由の身となることができる、幕府が発行した赦免状の巻物です。将軍がじきじきに加護を与えるもののようです。物語の冒頭で佐切が公儀御免状の巻物を持って画眉丸の目の前に突きつけますが、それが本物かどうかは定かではありません。というか物語の流れ的に、佐切が本物を持っているのは不自然なので、たぶん見えないところにでっかく『見本』とか書かれているのでしょう。いや知らんけど。
氣（タオ）
あまねく万物に存在する力のことで、動物や植物はもちろん、大気や建物などの無機物にも存在する波動のような力のことです。盲目の士遠はこの氣を認識して外界を把握しています。氣には属性があり、木・火・土・金・水に分類されます。さらに万物には陽の氣と陰の氣とがあり、陰陽は常に循環することで成り立っているとされています。この氣を陰陽と木火土金水の５つに分類する考え方は、中国の春秋戦国時代に端を発する陰陽五行説に基づいています。ちなみに「タオ」に「氣」の字を当てているのは、杠がこの感覚のことを「氣（き）」と呼んでいるためであり、音から判断すると本当は「道」ではないかと思われます。
相生（そうしょう）／相剋（そうこく）
ものすごくざっくり言うと「相生」が相手を強める「陽」の関係、「相剋」が相手を弱める「陰」の関係ということになります。相生はそれぞれ「木生火」「火生土」「土生金」「金生水」「水生木」になります。前の氣が後の氣を強めます。相剋は「木剋土」「火剋金」「土剋水」「金剋木」「水剋火」になります。前の氣が後の氣を弱めます。
島（こたく）
琉球よりもさらに南方に位置する、不老不死の仙薬があるとされ、画眉丸たち死罪人と佐切たち山田浅エ門の面々が送り込まれた島のことです。画眉丸たちは単に「島」と呼んでいますが、島の住人である木人は「こたく」と呼んでいました。どのような漢字が当たるのかは不明です。色鮮やかな花がでたらめに咲き乱れ、人面の蝶や異形の怪物が跋扈する人外魔境であり、仙汰の言葉によると「下手くそで悪趣味な曼荼羅」のような環境です。島は同心円状にエリアが分かれており、外側から門神や毒虫のいる「瀛州（えいしゅう）」、木人や竈神のいる「方丈（ほうじょう）」島の中央部に天仙たちが住む「蓬莱（ほうらい）」に別れています。
木人（ほうこ）
『指輪物語』のエントのような、樹木の姿をした生物。大きさはほぼ人間くらいの大きさで、奇怪な容姿ながら知性や攻撃力などもほぼ人間と同様です。島の中域である方丈に村落を持ち、そこで生活していましたが、村人たちはすべて樹化してしまったため、現在存在している木人は最後の生き残りです。もともとは人の姿をしていたとのことです。
門神（もんしん）
島の外周部である瀛州を守っている巨大な化け物です。両目からは腕が生え、舌が異様に長いのが特徴です。その巨大さ故に攻撃力は高いですが、知能はほぼ持ち合わせておらず、侵入者を排除するようにプログラミングされたかのような動きを見せます。島におけるヒエラルキーでは家畜扱いの模様です。
竈神（そうしん）
島の中域である方丈を闊歩している異形の怪物です。人の姿に別の動物や昆虫を混ぜたような奇怪な姿をしており、島に入ってきた人間たちを排除しようと攻撃してきます。数珠や払子、錫杖などを持ち、「殺しは罪です」などの言葉を発しますが、知能はそれほど高くありません。
道士（どうし）
天仙たちの身の回りの世話をする人間程度の大きさの異形の生物です。奇怪な姿をしていますが知性はあり、会話も可能です。敵対する相手に対して氣を使っての戦闘なども行います。性別は男性しかいません。神仙・上仙・地仙・道士という序列がある模様です。
天仙（てんせん）
島のヒエラルキーでは最上位に位置する、島を統べる７人の仙人たちです。不老不死の研究を行っており、島はその実験場として作られたものです。７人全員が同じ顔、同じ声を持ち、手足や首がもげるほどの深手を負ってもたちどころに回復し、自由に男の姿と女の姿とを入れ替えることができます。それぞれが研究のテーマを持ち、外丹法、房中術、周天（気功法）、胎息（呼吸法）、導引（体操法）、守一（瞑想法）を研究しています。
鬼尸解（きしかい）
天仙たちが一定以上のダメージを受けた際に変身する、植物と人間が混じったような姿をした巨大な怪物形態のことです。大量に氣を消費する代わりに、人間体よりも戦闘力が大幅に向上します。言わばエリアボスの最終形態のようなものです。
丹（たん）
人間を花化させ、その生命エネルギーである氣を効率的に取り出したものです。天仙たちはこの丹を飲むことで寿命を延ばし、若さを維持して脅威的な治癒能力を得ています。言わば天仙たちの生きる源とも言えるものですが、完全な不老不死が得られる究極の丹の開発を目指し、天仙たちは研究を行っています。島にあるという「不老不死の仙薬」はこの丹を指していますが、普通の人間が丹を接種すると花化してしまいます。
おわりに
『地獄楽』用語集、いかがでしたでしょうか。なんとか致命的なネタバレを回避しつつも、物語の中で登場する重要な用語や専門用語の解説に努めてみましたが、いかんせん何を語ってもネタバレにつながってしまいそうな危うさは如何ともし難くｗ。この文章が、皆さんが『地獄楽』をより深く楽しんでご覧いただくための一助になれば、これに勝る歓びはありません。
