今年2024年にアニメ第2期第2クールが放送されることが決まり、今まさに人気の絶頂期にあるとも言える無職転生ですが、本作が他の異世界転生系作品と比べても、特に「泣ける」と言われている作品であることをご存知でしょうか?現実世界から離れ、異世界で冒険をしていくというストーリー構成の異世界転生系作品では、 どちらかと言うと、泣ける展開よりも魅力的なキャラクターたちの活躍や、手に汗握るバトルシーンが注目されがちですよね。そのようなストーリー構成が求められる異世界転生系作品において、本作は魅力的なキャラクターたちの活躍や手に汗握るバトルシーンをうまく織り込みつつも、視聴していてファンが感動できるようなストーリー展開を描いている作品となっています。このことからも本作が異世界転生系作品としては珍しい深いテーマ性を持った作品であることが伺えます。今回はそんな本作の最大の魅力である「テーマ性」を深掘りしながら、異世界転生系作品でありながら、なぜ本作が感動する作品となっているのかという点に迫っていきたいと思います。
前世での失敗を細かく描く
本作では異世界転生系作品らしく、前世で失敗した主人公が異世界で人生をやり直すといった内容のストーリーとなっています。ただ、他の異世界転生系作品と異なるのは、主人公の前世での失敗がより緻密に描かれている点です。
いじめ・引きこもり
特に主人公の前世での失敗として、学校でのいじめと、その結果として自らが家に引きこもってしまったという経験です。異世界転生をする前の主人公が引きこもりだったというのは、割とよくある設定なのですが、異世界転生をした後の世界でも、そのトラウマを引きずり続け、転生先でも引きこもってしまうと言うのは、割と珍しい設定ですよね。
前世では何ら解決できず死亡
前世では主人公はこれらの問題を何ら解決できませんでした。最終的には家を追い出された際に戸惑ってしまい、あたふたしてるうちにトラックにひかれてしまうという外出先死亡RTA走者ばりの最期を迎えるほどだったのです。このようなあまりにも悲惨な人生を歩んできたこともあり、本作の主人公は異世界転生した後も自らの心の傷を引きずり続けてしまうのです。
転生して1からやり直す
このように本作では、主人公の前世での失敗が緻密に描かれており、異世界転生先でもその心の傷を負い続けているからこそ、転生して人生を1からやり直すというストーリー構成に現実味が帯びているのです。本作はこれらの主人公の前世でのトラウマを様々な出会いと経験を通すことで改善していくストーリーとなっています。
転生先での学びを丁寧に描く
特に本作は主人公が人生で負った傷を転生先でどのように解消していくのかといった点をストーリーを通して細かく描いている作品となります。ストーリー自体は主人公の幼年期、青年期と時系列が進んでいきますが、どのような時系列であっても、主人公の心の問題を解決していくというテーマはぶれないのです。
家族の絆
特に主人公の心の傷の解決を担う役割として、主人公の家族や親友が多く登場することとなります。前世の主人公は家族仲があまり良くなく、それが彼の引きこもりにも影響与えていたことが描かれていますが、それらの環境とは全く異なる環境を舞台とすることで、主人公の家族に対する考え方の変化を感じることができるようになっています。
誰かの力になるということ
また、本作で描かれているのは家族との絆だけではありません。家族以外の人物とも交流し、彼らの助けになることで、自らのトラウマも解消されていくという過程が描かれています。本作では家族や親友などといった数多くの人々との交流をメインで描いているのです。
いい事だけの世界ではない
本作の舞台である異世界はこのように主人公のトラウマが解消されていくという、良いことだらけの世界ではありません。現実世界と同じように、様々な人とのすれ違いや、大切な人の死が待っているのです。このような主人公にとっては辛いイベントも異世界で描くことによって、異世界が主人公にとって救いがあるだけの世界ではなく、辛いことも楽しいこともある、現実世界と変わらない場所であることが表現されています。
別れと新たな出会い
様々な人物との交流だけでなく別れも描かれている本作ですが、別れの後には必ず新しい出会いが描かれていきます。様々なキャラクター同士が、互いに交流しあう中で別れと出会いを繰り返し、主人公の周りにいる人物が常に時系列を大事に変化していくというのが、本作のキャラクター描写のスタイルなのです。
〈本作のテーマ〉本当の力はすでに自分の中にある
様々なキャラクターとの出会いと別れを描きながら、本作が私たちに伝えたいテーマは「本当の力は既に自分の中にある」と言うことなのではないでしょうか。ここからは本作の先ほど紹介した設定を通して、私たちに伝えたいメッセージについて考えていきたいと思います。
前世のスキルを使って転生先のいじめを解決
本作のテーマを考える上で、特に注目して欲しいのが、主人公の幼馴染であるシルフィエットのいじめを主人公が解決したシーンです。 いじめと言えば、主人公が前世でされてきたことであり、転生先にいたいじめられっ子のシルエットは、主人公からしてもかつての自分のように見えたはずです。そのような主人公からしても他人事のように思えないような悩みを抱えていたシルフィエットのいじめ問題を解決するにあたって、主人公はいじめ問題を誤解していた父を説得するために、かつて自らがニートとして培った口論術を活用することとなります。
本当は前世でも解決できていた
今回のいじめ問題を解決するにあたって、主人公が活用したスキルや正義感は既に前世で培われていたものだったのです。通常の異世界転生作品であれば、転生先で得たチート能力や転生先で培った技術を活用して、自らのトラウマや問題を解決していくというのがテンプレの流れでありますが、本作の主人公のトラウマ描写などの解決にあたって、最も解決策として活躍するのは、主人公がすでに前世で有していた能力なのです。
異世界だから解決できたことではない
特に本作で描かれている主人公のトラウマである「いじめ」や「引きこもり」は異世界だからこそ解決できるものではありません。主人公は異世界に転生した後も周りにいじめられないか気にしていましたし、相変わらず家の外から出れないままでした。また、それらのトラウマの解決策も異世界ならではのチート能力などを活用したものでなく、あくまで主人公が初めから持っていた自身のスキルや勇気に様々な仲間や家族との出会いを通して気づいていく形で描かれているのです。
足りなかったのは仲間と勇気
このことからも、本作の主人公は前世で抱えていたトラウマを異世界転生したことによって解決できたのではなく、異世界転生をする前からこのような状況を脱却することができたのにも関わらず一歩を踏み出すことができなかったものの、転生先で様々な仲間に恵まれ、自らでそれらのトラウマを解決することができるような勇気をもらえたということなのではないでしょうか?主人公がトラウマを解決した時に「ロキシーは気づかせてくれた」というような「気付かされた構文」を発することが多いのも、彼自身が自らの可能性に気づけたと感じているからでしょう。
本当の力はすでに備わっている。
このように本作では、主人公のトラウマ解決を描きながらも、一貫して誰かが彼を助けるのではなく、あくまで主人公自身が自らトラウマを解決していく。そしてその中で、主人公の自分自身での問題解決の手助けとして、仲間が存在するという形で、主人公の成長が描かれています。このことからも本作は「主人公が自らのトラウマを解決する力はすでに自分の中に備わっている。大切なのは、周りにその力に気づくための力になってくれる仲間がいるかどうかだ」というメッセージを我々に語りかけてくれていると考えることができますね。
本作が他の異世界転生と異なるわけ
このように主人公が前世で既に持っていた力に、様々なキャラクターとの交流を通して気づいていくというストーリー構成は、実は異世界転生系作品としてはかなり珍しいものとなっています。ここからはそんな本作のテーマの特異性についてさらに紹介していきたいと思います。
現実逃避になりやすい異世界転生作品
基本的に、異世界転生作品は前世である日本での生活を捨てて、異世界での生活を始めることを描いた作品となっています。 そのため、現実世界よりも異世界転生先を魅力的に描く必要があるため、通常よりも現実世界が辛く描かれていたり、異世界転生先が信じられないほど楽しいことだらけの舞台として描かれたりするのです。視聴者も他のジャンルの作品と比べても現実の辛いことを忘れて楽しむことができるという、高い現実逃避性を有している作品群であると言うことができます。
異世界転生系作品を疑問視する声も
このように、異世界転生系作品は視聴者側も現実世界に嫌気がさしてしまうような内容となっている作品も多くあるため、昨今のように異世界転生系作品が流行っている現状を疑問視している声もあるのは事実です。
異世界を描きながら現実世界を否定しない本作
一方で、本作は楽しい異世界転生先を描きながらも、主人公が前世で培ったトラウマやスキルを無駄にしておらず、前世での経験の延長線として異世界が丁寧に描かれている作品となっています。そのため、辛い現実である前世を否定し尽くす事はなく、逆にそのような辛い経験をしたからこそ、乗り越えられるような困難を描くなどして、異世界転生系作品でありながら現実世界を否定しない作品となっているのです。
本作は実は児童文学!?実は児童向け作品としては王道のテーマ
このように「主人公が本来持っていた力に異世界転生先で目覚めていくというテーマにすることによって、前世での辛い経験などを無駄にすることなくストーリー展開ができ、現実を否定しないようなテーマとなっている」と解説をしましたが、実はこのような「本当は自分の中にすでに力は備わっている」と言うテーマは児童向け作品としては王道の分類に入るものだったりするのです。
現実作品でも役に立つテーマでないといけない
そもそも児童文学は、両親が子供の成長のために買い与える文学であり、子供が成長していく上で役に立つテーマを孕んでいないと両親に選ばれないという前提があります。そのため、子供が成長していく上で、役に立つテーマを描いた作品が多くあるのです。
主人公だけの成長にしてはいけない
当たり前ですが、児童文学は小説の中のストーリーで主人公だけが成長していくだけでは意味がないのです。主人公の成長を通して、読者自身にも気づきがあり、日常生活の中に生かしてみようと思えるような作品になっている必要があります。このようなこともあり、通常の異世界転生系作品は先ほども紹介したように現実世界の否定というニュアンスも入ってしまうため、本来は子供が読むような物語としては機能しにくいという背景もあります。
「本当の力は自分の中にある」というメッセージが子供達に与える影響
だからこそ、児童文学は主人公等の成長を通して「本当の力は自分の中にある!今はまだその力に気づいていないだけで、素晴らしい経験や友人に恵まれれば、どんな困難も必ず乗り越えられるようになる」といった趣旨のメッセージを多く描いてきたのです。 誰しも初めから持っている力に気づくことが大切であると言われれば、その物語を読んでいる子供たちも日常生活の中で苦手なことにチャレンジしようと思えるような勇気を得ることができますよね。 決して作中の中にいるキャラクターたちの成長や幸せを描くだけでなく、読者のことも考えて「その力はあなたの中にもあるんだよ」と語りかけることが、物語作品としての教養性に結びついているのです。
似たテーマの名作を見てみよう
このような、キャラクターたちの単純な成長劇を描くのでなく、作品を楽しんでいる読者自身が勇気をもらえるようなテーマ性を含んだ作品は本作以外にも数多くの児童文学で存在しています。本作はかなり攻めた表現が多いため、実際に子供たちに見せる事は難しいかもしれませんが、もし本作を読んで感動したというお父さんお母さんがいましたら、本作と同じようなメッセージを含んだ名作児童文学を子供に買い与えても良いのではないでしょうか。
まとめ
いかがでしたか?今回は本作の持つテーマ性とその世界観について紹介していきました。本作は異世界転生系作品でありながら、読んでいて私たち自身が元気をもらえる深いテーマ性を持つ作品となっています。現実世界を否定することなく、主人公の努力と仲間たちの絆によって、一つ一つ問題を解決していくストーリーは、長い時代を経ても普遍的な魅力を持つものですので、ぜひとも今後も本作を読み返してみてくださいね。