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【AIの遺電子】注目の近未来医療SFヒューマンドラマ『AIの遺電子』。その最大のSF的ギミックである『ヒューマノイド』とは何かを徹底的に考察!

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人間、ヒューマノイド、ロボットが入り乱れて当然のように生活している近未来を舞台にした医療SF『AIの遺電子』における最大のSF的センス・オブ・ワンダーが『ヒューマノイド』という設定です。この物語の世界ではヒューマノイドが全人口の一割を占めている状況になっています。「ヒューマノイド」という言葉そのものは特に目新しいものではないので、なんとなく分かっているように思ってしまいますが、似たような外見でも『人権が認められ、ヒトとして扱われるヒューマノイド』と『モノとして扱われるロボット』の別がある世界におけるヒューマノイドの定義はけっこう複雑です。この記事では『AIの遺電子』における「ヒューマノイド」とはなにか、といったことを掘り下げてみたいと思います。

ヒューマノイドの定義:その1

『AIの遺電子』では、人間と同じ姿を持ち、人間と全く変わるところなく生活しているヒューマノイドが多数登場します。『人間』は現在生きている我々と全く同一の存在ですので、ここでわざわざ定義する必要もないでしょう。一方『ヒューマノイド』ですが、もの凄くざっくり定義すると『人造人間』ということになるのではないかと思います。言うまでもなくヒューマノイドは自然発生する存在ではなく、すべてが人工物です。ヒューマノイドの身体は『バイオボディ』というアーティフィシャルな生体で、瞳の形が羊のように「横長」である点が唯一、外見的に人間と異なる点です。赤ん坊、子供、若者、大人、老人と、人間同様にその肉体は成長し変化します。もちろん男性・女性といった性別の違いもありますが、生物ではないのでヒューマノイドは性行為による妊娠・出産といった自己複製能力は持っていません。ヒューマノイド同士の夫婦が子供を持とうとした場合、この世界全体を司る超AIである『MICHI』に申請を出し、許可が下りれば産院で胎児の形状をした新たなバイオボディの『製造』が開始される……といった段取りになっている様子が、原作コミックの7巻で描写されていました。

ヒューマノイドの定義:その2

ヒューマノイドの身体はバイオボディですが、頭には電脳が格納され、ひとりひとり特徴や性格の異なるAIが搭載されています。バイオボディに搭載されるAIは、例えて言うのであれば基本的なBIOSだけが搭載され、それ以外はまっさらな状態のPCのようなもので、生育環境や成長に伴う後天的な学習によって得られる知識や能力と、生まれ持ったAIにあらかじめ組み込まれている性質との兼ね合いとで、その個体の「個性」が決まってくるあたりは人間と全く同様であるように見受けられます。バイオボディはストレスで脱毛症になる、経年劣化で味覚が衰えるといった疾病(故障)が発現することもありますが、例えば癌のような細胞のエラーによって引き起こされる疾病や、アレルギーのような症状がバイオボディでも発生するのかどうかに関しては、原作コミック中でも特に言及も描写もされていませんでした。ヒューマノイドが人間と大きく異なるのは、頭が無事であれば、身体が修復不可能なほど損傷した場合でも、新たなボディに脳を換装することができる点です。その点においては生身の人間より「便利」であると言えます。ただし、人間と比較してヒューマノイドが能力的に優れているかというとそんなことはなく、程度の差はあっても知力・体力ともに概ね普通の人間と同程度に設定されている模様です。

ヒューマノイドと「人権」

『AIの遺電子』の世界では、ヒューマノイドは『人間』として人権が認められており、生物か人工物かの違いはあるにせよ、基本的には「人種の違い」程度の差異として社会全体に受け入れられています。現在、私たちの生きる世界で「AI」と言うと、chatGPTや画像生成AIなどのように、「ネット上のビッグデータをもとに学習する人工知能」といった意味あいなので、ヒト型の生体ボディを持つヒューマノイドにAIが搭載されている、という設定自体は理解できても「なぜヒト型の生体ボディの搭載されたAIが、ロボットではなく人間として扱われるようになったのか」という点に関して疑問が残ります。『AIの遺電子』原作コミックでもこの点に対しての言及はされておりませんでしたが、この点は続編である『AIの遺電子 Red Queen』のストーリー冒頭で詳細に描写されています。興味のある方は実際にコミックをお読みになっていただきたいのですが、要は現在の「ビッグデータ学習型」のAIは、知識はいくらあっても『知性』を獲得することはないため、研究の方向性が「ヒト型ボディに格納したAIが外的刺激を受けることで学習していく」という方向に舵を切った結果、人間の模倣ではない独自の知性や感情を得るようになり、それを受けて社会が「ヒューマノイドの人権」を容認する方向に動いた結果……ということだそうです。

ヒューマノイドと「人間性」

『AIの遺電子』の世界は、作者である山田胡瓜先生ご自身が「技術に対する超楽観論者」であるとインタビューで仰っているように、ヒューマノイドが人権を得ている世界観にしても、超AIが社会全体の舵取りを行う社会の仕組みにしても、それほど大きなトラブルもなく社会が運営されており、「性善説」に基づいた社会が展開されています。ただ、人間性というのは思いやりや献身、自己犠牲などの素晴らしい側面ばかりではなく、不寛容、差別、嫉妬、憎悪、独善などの負の側面も内包するものだと筆者は考えているので、来たるべき未来として、この作品で描写されるような「優しく穏やかな世界」が果たして本当に訪れるのかに関しては、昨今の海外でのジェンダー関連の暴走や移民の大量流入による犯罪の増加、ポリコレ界隈に配慮した創作物の壮絶な爆死っぷりなどを見るにつけ、『AIの遺電子』みたいな性善説で成り立つ世界が実現する可能性は、多様性に寛容な我が国日本であったとしても、どこかで現在の方向性とは明確に異なるターニング・ポイントが発生しなければ現実のものとなるのはいささか難しいのではないかと考えています。

人間として扱われるヒューマノイド、モノとして扱われるロボット

『AIの遺電子』の世界には、ヒト型の『ロボット』も多数登場します。男性、あるいは女性の恋人として振る舞うコンパニオンロボットや、豪華客船の船内で給仕を行うロボット、子供のような姿をした介護ロボットなど、さまざまな種類のロボットが存在しますが、特にコンパニオンロボットなどは、外見からはヒューマノイドとほぼ区別がつきません。にも関わらず、ヒューマノイドは「ヒト」として人権が認められており、かたやロボットは「モノ」「所有物」として扱われます。なぜこういった違いがあるのかに関しては、本編コミックをお読みになってご自身でも考察してみていただきたいのですが、筆者は「自我のありなし」による違いではないかと考えています。ヒューマノイドの知性や性格は生得的な気質と後天的な学習との結果得られた『自立的』なもので、同一の個体はひとつとして存在しないため、非常に独自性・独立性の高いものであると作品内で描写されています。(そのため、この世界では「人格の売買」が重罪として扱われるのだという認識です)。一方、ロボットは言わば「プロダクト」「製品」であるため、『同一の個体』というものが複数存在しますし、その反応や受け答えがどれほど人間と酷似していたとしても、それは「あらかじめプログラムされた内容の出力」であり、決して「自己の独自の判断による自発的な行動」ではないという点が、ヒューマノイドとは大きく異なる点です。ただし、人間そっくりの外見を持ち、人間そっくりに振る舞うロボットの存在は、対応する人間に「感情移入」「共感」を呼び起こすため、人間の側がロボットの中に『魂』の存在を感じてしまうことこそが問題の本質ではないでしょうか。

おわりに

SF作家、アーサー・C・クラークの言葉に「高度に発達した科学は、魔法と見分けがつかない」という有名なセリフがあります。洞穴で暮らす原始人が現代に生きる私たちの生活を見たら、水道の蛇口をひねると水が出ることすら『魔法』と認識することでしょう。『AIの遺電子』で描写されている世界は、現時点ではまだSFの領域ですが、昨今のAI技術の飛躍的な機能向上や生命工学、医療技術の進化を考えると、魔法のような全くの絵空毎ではなく、今からほんのちょっと未来には、本当にこういった世界が待っているのかも知れない、と思わせられるような世界です。しかし、果たしてその世界はユートピアなのかそれともディストピアなのか……そういったことも『AIの遺電子』という作品は問題提起しているように思われます。

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黒猫招福

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