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【AIの遺電子】ヒューマノイドが闊歩する、来たるべき近未来を舞台にした医療SFが描き出す世界を現実化する最重要キーワード『シンギュラリティ』(技術的特異点)を解説!

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人間そっくりのヒューマノイドが地球全人口の1割に達した近未来を舞台に繰り広げられる医療SF『AIの遺電子』。現実世界でも、chatGPTなどのAI技術の隆盛がテレビでニュースになるほどの活況を呈しています。この状況がどんどん進化していけば、いつかは『AIの遺電子』で描写されるような世界が到達することがあるかも知れません。その際に重要なキーポイントになるのが『シンギュラリティ』(技術的特異点)です。この記事では『シンギュラリティ』とはいったいどのような概念なのかを掘り下げてみたいと思います。

「シンギュラリティ」(技術的特異点)とは

『シンギュラリティ』という英語を日本語化すると『技術的特異点』という意味になります。『特異点』(シンギュラー・ポイント)という言葉自体は数学的な概念ですが、物理学用語でも用いられており、ブラックホールにおける『重力特異点』という言葉はよく知られているのではないかと思います。数学的・科学的な厳密さを問わずに『特異点』と言った場合は、一般的には「後戻りできないターニング・ポイント」といった意味あいで使われることが多いように思います。2021年にオンエアされたアニメ版ゴジラの正式なタイトルは『ゴジラS.P<シンギュラポイント>』でしたが、内容から鑑みてこれなどは典型的な例ではないでしょうか。

「シンギュラリティ」の定義

例えば、ジェームズ・ワットによる「蒸気機関の発明」は、産業革命をもたらしたことで社会全体における産業の仕組みを後戻りできない形で変革し、明確に中世と近代を分断したという点において、まぎれもない「技術的特異点」だったと言えますが、SF的な文脈で『シンギュラリティ』という言葉が用いられた場合は、「AIが人間の知性を大幅に凌駕する」時点のことを指します。SFという文学ジャンルは、昔からこういったキャッチーなスローガンが大好きで、例えば「スペース・オペラ」「ワイドスクリーン・バロック」「ニュー・ウェーブ」「サイバーパンク」「スチームパンク」といった言葉で、類似した作品群をひとまとめに分類して押し出すことで知られています。「シンギュラリティ」は、一般にも浸透したサイバーパンクの後継を狙って、SF界隈では10年くらい前から頻繁に用いられていましたが、個人的には音の響きがサイバーパンクほどキャッチーではなく、かつその概念自体がイマイチ分かりづらいために、あまり浸透しているとは言いがたいスローガンだ、という認識です。

現在は「シンギュラリティ」直前?

蒸気機関の発明により、馬がいなくても自走できる馬車(=自動車)が出現し、その結果としてこれまで存在していた『御者』や『馬丁』という職業がなくなりました。(その代わりに『運転手』『自動車整備士』という新たな職業が生まれましたが)。現在のAIがさらに発達し、自動車の完全自動運転が当たり前になった世界が到来すれば、かつての『御者』と同様に、今度は『運転手』という職業がなくなるかも知れません。これなどは『シンギュラリティ』のいい例だと思いますが、それ以外にもAIの得意分野である「過去の膨大なデータの蓄積をもとに、問題に対する解答を導き出す」技術が必要とされる職業、例えば判事、検事、弁護士といった法律家や診断を行う医師、翻訳家など、これまでは長期間の学習と高度な知識が必要とされた仕事がAIに置き換わる可能性が指摘されています。逆にAIに置き換えづらい職業としては、対面接客が要求される職業、例えばファーストフード店やコンビニの店員などは、シンギュラリティを超えても生き残る職業だと言われています。シンギュラリティの発生により、そういった職業的なパラダイム・シフトが発生した世界は、少なくとも現在の私たちが『常識』として認識しているような職業観とは明らかに異なる世界でしょう。

「シンギュラリティ」の提唱者、レイ・カーツワイル

『シンギュラリティ』の概念を強力に提唱する人物として、人工知能研究の世界的権威であると同時に発明家としても知られる米国人のレイ・カーツワイルがいます。彼の生み出した発明品で私たちに馴染みの深いものとしては、フラットベッド・スキャナーやOCRソフトなどがありますが、思想家であり未来学者でもあるカーツワイルの未来予測は、かなりの精度で未来に実現する技術を予測して的中させています。そんな彼の未来予測によると、2045年に「シンギュラリティ」が起こるのだそうです。彼の予測ではその頃には人間と機械との明確な区別はほぼなくなっているだろうとのことですが、まさに『AIの遺電子』で描かれているような未来世界の姿を想定しているものと思われます。

未来世界はユートピアか、それともディストピアか

現代に生きる私たちにとっては、現在の世界が標準でありアタリマエの世界ですが、さまざまな常識やルール、モラル、法律で行動が規定され、時間に追われて過ごす現代人の生活は、蛮勇をふるって生きていたヴァイキングや戦国武将の目から見れば、文明こそ魔法のように進歩した世界かも知れませんが、窮屈極まりない地獄のような世界に見えるのかも知れません。技術の進歩は革新をもたらす一方で、たとえば街の写真プリント店がデジカメの普及とともに駆逐されたように、あるいは書店がネット通販の普及によって街から消えつつあるように、不可逆的な変化をもたらします。かつては家庭における娯楽の中心がテレビでしたが、ネットの普及により、今やテレビは茶の間の王様ではなくなりました。文明の進歩は歩みを止めることはなく、良かった時期の過去に巻き戻ることもないため、カーツワイルの未来予測の通りに2045年にシンギュラリティが起こるのかどうかは別としても、遅かれ早かれそういったターニング・ポイントが訪れることでしょう。ただし、その世界が現代に生きる私たちの目から見てユートピアなのか、それともディストピアなのか……正直なところ、現時点では判断がつきかねます。

おわりに

『AIの遺電子』では、技術の進歩がもたらす『負の側面』をあまり作品中で直接的に描写していません。それは作者の山田胡瓜先生が意図的に排除したのだと理解しています。(そのこともあり、続編である『AIの遺電子 Red Queen』では、AIが全世界的に浸透した世界で、新興国においてどのような問題が発生しうるか、ということを反動的に描き出したのだと思っています)私たちの生きる世界が変容するスピードは、指数級数的に加速しているようにも思えます。世界の変容に伴い、これまでは是認されていたことが、明日には否定されるのかも知れません。常識は普遍的なものではなく、社会の変容に伴って変化し、移り変わるものでもあります。そんな変容する世界でも、人が人を愛し、思いやり、慈しむという行為は太古の昔から変わることなく「素晴らしいもの」としてあり続けています。『AIの遺電子』のテーマは、まさに『変わりゆくものと変わらないもの』を描き出すことでの「問題提起」そのものだと思います。そこに「絶対的な正解」は存在しないので、作品を受け止めたひとりひとりが、自分なりの回答を導き出すことが求められているのではないでしょうか。

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