数多くある漫画のジャンルの中でも特に鉄板のジャンルと言われているラブコメですが、特に近年ではこのラブコメの人気が加熱しています。隣の席の同級生との恋の駆け引きを描いた『からかい上手の高木さん』や、ラブコメでありながら過去に出会った運命の人物を探すという推理ものの要素を取り入れた『五等分の花嫁』、文学的な要素を多く取り入れた『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』など、近年多くの作品が人気を集めているジャンルなのですが、そんなラブコメ作品を見るのがどうにも苦手だという方の声も同時に多く聞くようになりました。そこで今回はラブコメの面白さとその面白さを引き出す楽しみ方を本作『女神寮の寮母くん。』を題材に解説していこうと思います。
ラブコメ嫌悪症の症状
まずラブコメが好きになれない人、いわゆるラブコメ嫌悪症の人たちからして本作のようなラブコメ作品のどこに嫌悪感を抱くのかという点について、ここではラブコメ嫌悪症の症状として紹介していきたいと思います。
ご都合主義が嫌い
まず第一に挙げられるのがラブコメ作品の典型的な物語進行です。ラブコメ作品では主人公に並んでヒロインも魅力的に描かなくてはならないため、主人公とヒロインの関係をテンポよく進展させる必要があります。そのため、ついさっきまでツンツンしていたのに数ページ先ではイチャイチャしているという、ご都合主義的なストーリ進行になってしまうのです。
主人公が憎いと思えてしまう
次に挙げられるのが、主人公に対して全く共感できないという点ですね。というのも作中で数多くのヒロインからほぼ無条件にちやほやされる主人公の境遇は読者からしてみればあまりに非現実的に映ってしまいます。このような究極のラッキーボーイに感情移入することは確かに難しいですね。
ヒロインが好きになれない
当然ですが主人公に共感できないということはその主人公に恋をしているヒロインにも共感ができないということになってしまいます。主人公とヒロインに共感できないということで作品の内容自体がどこか他人事でキャラクターを好きになれないというのが典型的なラブコメ嫌悪症の症状です。
恋愛小説と漫画ラブコメの違い
このように主人公の心情や内面を丁寧に描くことができる恋愛小説とは少し違った側面を漫画ラブコメは持っているのです。ですので、同じ恋愛を扱った作品であっても少し味わい方が異なるということを知った上で漫画ラブコメを読む必要があるのではないでしょうか?
ラブコメ嫌悪症の処方箋
それでは以上の理由からラブコメ作品を楽しむことができない読者はどのようにラブコメと向き合っていけばいいのでしょうか?嫌なら読まなければいいというのは当たり前の意見ですが、実はラブコメに関しては、ラブコメ嫌悪症の方でも見方一つでかなり楽しむことができるのです。
ラブコメ嫌悪症は高偏差値が多い!?
まず、ラブコメ嫌悪症の方に関して一言言えるのは偏差値の高い方が多いということです。
なぜラブコメ嫌悪症は高偏差値なのか?
やはり頭のいい方がそのままラブコメを読んでしまうと「なぜ主人公がこのような行動をしたのか?」や「ヒロインの本当の気持ちは何だろう?」といったようなモヤモヤが多く出てきます。当然ですが、ラブコメはそのような疑問にきちっと回答を出してくれるジャンルではないので、どこか内容が薄く感じてしまうわけです。
ラブコメ嫌悪症にしかできないラブコメの楽しみ方がある
では偏差値高めの読者はどのようにしてラブコメを楽しむべきなのでしょうか?実は見方ひとつで恋愛小説に負けないくらい楽しくラブコメを楽しむことができるのです。ここからはそんなラブコメの偏差値高めの楽しみ方を紹介していきます。
ラブコメの見方を変えてみる
まず、ラブコメ嫌悪症の方はラブコメの見方を変える必要があります。当然ですが、恋愛小説と同じような視線でラブコメ漫画を見ている限り、ラブコメ漫画の本来の楽しみ方を理解することはできないのです。
構図に拘ってみる
ラブコメ漫画の本質は一枚一枚のイラストにあります。ストーリーや主人公への共感性という側面ではなく、いかに素晴らしいイラストを最適のタイミングで出せるかというところに焦点を絞った作品なのです。
ラブコメ漫画とはギャラリーである
つまり、ラブコメ漫画というのは一種のギャラリーであるといえます。どのようなテンポでどのようなシチュエーションのイラストを楽しむことができるのか注目して本作を見てみてください。
ラブコメは歌舞伎だ!!
さて、ラブコメ漫画はギャラリーのように楽しめと上記で解説させていただいたわけですが、実は日本の古き良き伝統芸でも同じような楽しみ方がなされています。それが、日本の舞台芸能の金字塔ともいえる歌舞伎です。ここからは歌舞伎とラブコメ漫画の共通した楽しみ方を紹介していきたいと思います。
受け継がれる伝統とお約束
ラブコメの特殊な点である「お約束」ですが、これも歌舞伎に被せて考えてみるとすっぽりと納得することができます。歌舞伎というのは長い伝統のなかで培われた優れた劇を現代にも伝えているという側面があります。これはラブコメのお約束とも共通している魅力なのではないでしょうか?ということはラブコメの楽しみ方は歌舞伎から学ぶことができると言えるのではないでしょうか?
役者(キャラ)の違い
歌舞伎の楽しみ方というのは劇の内容を楽しむというのはもちろんなのですが、中でも特に大切なのは同じ劇の中でもどの役者が演じるかという点です。役者によって家柄や体格に特徴があり、その違いを楽しむというのも歌舞伎の楽しみ方の一つなのです。
ラブコメの楽しみ方
これはラブコメ作品の楽しみ方にも共通しているのではないでしょうか?同じようなお約束が中心となっている物語の上でいかにキャラクターという役者を変えて面白くしているのかというのがラブコメ作品で注目すべき点なのです。
ラブコメと歌舞伎の見栄
このようにラブコメを歌舞伎のような見方でみると、他にも歌舞伎との共通点が見られます。例えば歌舞伎では見栄といって観客の印象に残したい場面をあえて静止するという見栄というものがあるのですが、ラブコメでもヒロインの可愛いシーンをバンと大きく載せるシーンが多用されており、物語としてではなく、むしろ歌舞伎のように「見栄」のような一コマを味わう物なんです。
本来の歌舞伎とラブコメ
ラブコメを伝統ある歌舞伎と重ねるのはいかがなものかという意見もあると思いますが、そもそも振り返ってみれば歌舞伎も女性が舞台に立ち演技をするという当時としてはエロティックな文化でした。
ラブコメは現代の歌舞伎だ!
それが仇となって江戸時代に規制が進み、男性のみしか舞台に立てなくなってしまったのですが。ただ、いずれにせよ歌舞伎のこのような時代背景を考えれば、決してラブコメと歌舞伎が遠いベクトルの文化でないということがわかっていただけるのではないでしょうか?
本作の面白さ
このように本作には従来のラブコメの良さがかなり凝縮されているのです。ただありきたりなお約束を踏襲しているのではなく、その踏襲の中で工夫を施し、さらに面白くしている歌舞伎的な面白さを味わえるというのが、近年のラブコメ作品と一線を画した本作の面白さなのです。
伝統の味
近年では従来のラブコメのお約束に縛られることなく、独創的な作風を武器としてブレイクしている作品が多く登場しています。もちろんそのような作品も魅力的ですが、特には本作のように王道の面白さを突き詰めている作品に目を通してみるのも面白いですよ。
まとめ
いかがでしたか?今回は近年のラブコメの傾向とは一線を画す、王道ラブコメ作品『女神寮の寮母くん。』の面白さと、近年のラブコメについて紹介していきました。最近ではSNSの普及に伴い、可愛いキャラクターのイラストは簡単にスワイプでみることができるようになりました。しかし、そのような時代であっても可愛い女の子のイラストがさらによく見えるようにストーリーで繋げていくというラブコメの発想は生き続けているのではないでしょうか?