今年2024年に待望のアニメ化がされる事が決定した本作『じいさんばあさん若返る』ですが、皆さんは本作がここまで世間に受け入れられた要因は何だと思いますか?もちろん漫画作品として純粋に面白かったというのは間違いないのですが、それ以外にも、高齢者が若返るというテーマの特殊性故に、描かれることとなる現代日本の少子高齢化に伴う様々な問題が描かれていることも関係しているのではないでしょうか?単純なラブコメ作品としてだけでなく、高齢者を描くことで、これまでのラブコメ作品ではなかった、現代日本の問題点や若者には気づくことのできない高齢者からの視点など、様々な観点から読者に気づきを与えてくれる作品となっているのです。そのため、本作はラブコメ作品としての面白さもありながら、昨今の世相を大いに反映した深みのある作品でもあると言えるのです。このように、本作のもう一つの面白さであるのが本作の設定に隠された数多くの現代社会の問題点なのです。今回は、そんな本作のもう一つの魅力である現代社会の問題点について、本作での描写をもとに紹介をしていきたいと思います。本作を一味違った楽しみ方が出来るような記事になっていますので、ぜひともチェックしてみてくださいね。
ラブコメ要素以外にも面白みがある本作
冒頭でも紹介したように本作はラブコメ作品として以外の見方ができる作品となっています。純粋にじいさんとおばあさんが若返って、1から青春を楽しむというラブコメ描写も十分に面白い作品となっているのですが、本作のさらなる楽しさを引き出すためには、本作の裏のテーマに隠された様々な作者の主張に目を向ける必要があるのです。
様々な世相を反映
本作は高齢者を主人公として描いている特性上、現在の日本で高齢者が直面している様々な問題について触れられている作品となっています。通常ラブコメ作品と言うのは、若い世代が楽しむ作品となっているので、高齢者の視点から見た日本の問題点などはなかなか気づかないという方も多いでしょう。そのような方が読むラブコメ作品だからこそ、高齢者ならではの視点を表現する意義があるのではないでしょうか。
東北地方ならではの問題
特に本作は舞台が東北地方となっており、東北地方ならではの問題も数多く描かれています。東北地方といえば、特に少子高齢化の影響を受けており、過疎化が進んでいる地方となっていますので、地方ならではの問題点が顕著に現れている地方であると言うことができます。そのため、本作には過疎地域ならではの問題点も数多く描かれており、現代日本における地方の問題点などを垣間見ることができます。
過疎化問題
東北地方の問題点と言えば、今最も注目されているのが過疎化問題です。少子高齢化によって子供たちの数が減り、高齢者の割合が増えているので、地方まで労働力が回らなくなってしまっているのです。そのため、地方にはその地域に住み慣れた高齢者だけが残るような状態となり、街の機能を維持するのが難しくなってしまっているのです。
シャッター街と化す商店街
このような地方の過疎化問題は、商店街などで如実に感じ取ることができます。一昔前までは商店街などに人が溢れていた地方ですが、現在では人の数が減ってしまい、 お店を閉めているという方も多いようです。そのため、かつて賑わっていた商店街は、その多くがシャッター街となってしまい、日常からその商店街を使っていた高齢者が買い物ができない状態となってしまっているのです。
地方に人を集めろ!!
そのような状況を打破するべく、現在では地方行政が主体となって、地方に観光客を呼び込むという運動が活発となっています。東京に集中している住民を移住させる事は難しくても、旅行者という形で人を集めることであれば可能かもしれません。現在の地方行政にとって多くの人に観光に来てもらうというのは、その地域の存亡をかけた課題なのです。
アニメの集客効果
そのような状況の中で注目をされているのがアニメによる集客効果です。地方を舞台にしたアニメでは「聖地巡礼」と言われる行動をとるファンが多くおり、アニメでその地域が舞台になるだけで、多くの観光客が見込まれるのです。現在ではその集客効果に注目する地方自治体も多く、漫画作品の舞台に取り上げられるように工夫をする専用の部署が立ち上げられるほどの賑わいを見せています。本作も東北を舞台としているので、東北地方への集客効果が期待できるかもしれませんね。
認知症問題
本作では高齢者の認知症問題についても書かれています。高齢者が増えている現在の日本において、高齢者の認知症というのは大きな課題となっています。認知症は患った本人が大変な思いをするのはもちろん、共に暮らす家族にも介護等の負担が大いにかかる病となっているのです。しかし、一方で、身近に高齢者がいない若者は、この認知症の大変さをなかなか感じづらいと言う現状もあります。
イネの姉ツルとの交流
本作では、主人公イネの姉であるツルが、認知症を患っている状態で登場します。ツルはほとんど会話をすることができず、常にぼーっとしていたり、時系列があやふやな会話をしてしまったりしています。本作でもイネやその孫たちがツルの病状をいたわって、病室に訪れるシーンが描かれています。
ラブコメ作品だからこそ描く意義がある
このような認知症患者の描写というのは、本来のラブコメ作品であれば不要なものです。しかし、高齢者をテーマにしている本作で、かつラブコメ作品として若年層の読者が多いからこそ、いずれ自らにも影響与える病となるかもしれない認知症についてその理解を進める描写が描かれていることには大きな意味があるのではないでしょうか。
終活問題
本作では、高齢者の終活問題についても緻密に描かれています。もともとは高齢者であった2人が主人公であるということもあり、本作では死に対する高齢者の考え方などが描かれているシーンが多く登場します。そのため、ラブコメ作品でありながら、高齢者がどのように自らの死と向き合っていくのかという終活の問題も同時に取り上げている作品となっているのです。
迫り来る死にどう向き合うか?
本作では、老化したときに思ったより体が動かなかったり、本来はオセロが得意だったのに、孫に負けてしまうほど頭の働きが衰えたりと、数多くの老化に対する理解度を上げてくれる描写が数多く登場します。我々も年老いていくにつれて、いずれ経験していく現象となりますので、本作を通して理解をしていくことには大きな意義があると思います。
友人の死
また自らの死だけではなく仲良くしていた友人の死等の描写も登場しています。今までずっと仲良く暮らしてきた仲間たちが1人また1人と、欠けていく苦しさも同時に描かれているのです。また、本作の舞台が東北地方ということもあり、自らの親族が全員都会に出てしまって、墓参りをしに来てくれないといった地方に残された高齢者ならではの苦しみにも焦点を当てて描かれています。
愛する人の死
いずれ死んでしまうのは自らだけでなく、自らの愛する配偶者にも言えることです。本作では配偶者の死についても考えさせられる描写が多く登場しています。本作に登場するイネは元々病弱ということもあり、残されている時間が少ないようです。このようなイネの状態に対して、正蔵がどのように向き合っていくのかという点は、ぜひとも作中を通して注目してみてくださいね。
かつて日本にあった問題
本作に描かれているのは、現代日本の問題点だけではありません。かつて日本にあった様々な問題についても描かれており、おじいちゃんおばあちゃんから昔の話を聞いている時のように、昔の日本の問題点を知ることができるのです。かつて正蔵とイネが、どのような人生を歩んできたのか深掘りしている中で、現代日本と昔の日本との違いについても学ぶことができます。
昔は今ほど楽ではなかった
特に正蔵とイネは、若い時に苦労をした人物として描かれています。今ほど家具の機械化も進んでいない時期ですので、家の周りの作業は基本的に手作業ですし、核家族化が進んでいる現代日本と異なり、自らの義理の父親と義理の母親の世話をしなければならない状態に置かれているイネの苦労も垣間見ることができます。
高校に通えないは当たり前
正蔵も高校に通いたいという希望があったものの、家の事情で進学できなかったという過去があります。今でこそ高校に通うというのは、割と誰でも叶えられる進路となっていますが、昔はそのような余裕のない家庭が数多くあったのです。皆さんのおじいちゃんおばあちゃんにも話を聞いてみると、高校に進学できなかったという経験のある方がいらっしゃるかもしれません。昔は今よりも学校に通えると言うことが貴重な経験だったのです。
自由に恋愛はできない
更に昔はお見合い結婚が中心であり、自由に恋愛をして好きな人と結婚する事は一般的ではありませんでした。本作の主人公である正蔵とイネは当時としては珍しく自由恋愛をして結婚することができたキャラクターとして描かれていますが、この2人のように、好きな相手と結婚することができたというのは、非常にレアなケースだったのです。
若い世代とのギャップ
また、本作では若い世代とのギャップに悪戦苦闘とする高齢者たちも多く登場しています。現在SNSでは若者の感性に追いつくことができない高齢者に対して「老害」と表現するような傾向がありますが、本作は高齢者の立場から若者を見たときに、彼らがどれだけ高齢者と感性の離れた人間であるかを緻密に描いているのです。
高齢者の側に立つことで見えてくるもの
若者の立場から、時代遅れの高齢者に対して「老害」と突き放す事は簡単ですが、一度高齢者の立場に立って、高度にテクノロジー化された現代社会がどれほど複雑であるかという点には目を向けるべきであるといえます。本作は高齢者の観点からストーリーが進行しますので、高齢者にとって現代社会がどれほど複雑で難しいものなのかが理解できる作品となっています。
若者とどう向き合うか?
数十年も歳が異なる若者とどのように向き合っていくのかというテーマは本作を通して描かれています。本作の主人公である正蔵とイネは、若者の文化に対して非常に寛容な人物でありますので、自らが体を張って若者の文化を体験する中で、若者とのギャップを解消しようとする2人の努力を見ることができます。
ラブコメ以外も注目をするともっと面白い!
このように、本作にはラブコメ描写以外にも、様々な現代社会に対する問題が描かれている作品となっています。純粋にラブコメ作品として楽しむだけではもったいない作品となっていますので、ぜひともこれらの点について目を向けて本作を楽しんでみてくださいね。
深みがある作品だからこそヒットした
本作がヒットした要因は、このような様々な問題を取り扱っている本作ならではの独自の視点にあると言えるでしょう。ラブコメ作品でありながら、高齢者を主人公にした作品というのはほとんどないと思いますので、このような本作の特異性は他の作品にはないアイデンティティーであるといえますね。
青森に縁のある作者だからこその視点
特に本作の作者は、青森県に在住していた中でデビューをされたという異色の経歴を持っている漫画家さんとなっています。そのため、青森県に対する解像度が非常に高い漫画家さんなのです。実際に青森県に住みながら、その地域を見つめているからこそ気づくことができる様々なテーマや描写などが多く登場する作品となっていますので、ぜひとも本作の舞台となっている青森県にも注目しながら楽しんでみてくださいね。
まとめ
いかがでしたか?今回は本作『じいさんばあさん若返る』にて描かれる本作のテーマについて簡単に紹介をしてきました。本作は現代社会の少子高齢化問題のみならず、かつての日本の様々な問題点や、高齢者ならではの視点を若年層に届ける描写など、様々な観点から楽しむことができる作品となっています。アニメ版でも同じようにこれらのテーマが描かれる事となると思いますので、今回の記事を読んで、本作のラブコメ描写以外に興味を持ったというファンの方は、アニメ版でもこれらのテーマに注目をしてみてくださいね。