現在でも幅広い層から支持を受けている本作『うる星やつら』ですが、旧アニメ作品では劇場版作品も展開されていました。劇場版作品では原作で描かれることのなかったオリジナルストーリーを描いており、今もなお熱狂的なファンから支持を受けています。特に旧シリーズの劇場版アニメ第2作目、『うる星やつら2 ビューティフルドリーマー』は、興行収入こそ振るわなかったものの、後のアニメ界に多大な影響を残し、現在でも尚1980年代を代表する劇場版アニメ作品として語り継がれています。 アニメ史に影響を与えたという点では原作の『うる星やつら』よりも優れているという声もあり、現在でも『うる星やつら』 といえば、この『うるせえやつら2 ビューティフルドリーマー』がまず頭に浮かぶというファンもいるほどなのです。今回はそんな伝説的劇場版作品である『うる星やつら2 ビューティフルドリーマー』について紹介をしていきたいと思います。アニメ史に残る超傑作作品ですのでぜひともチェックしてみてくださいね。
映画内容
本作はラムと諸星あたるのこれまでの学校生活を描きながらも、学園祭の前夜が永遠にループし、抜け出すことができなくなってしまった異質な世界を舞台としています。日常系アニメ作品でありながら、作品の特色である永遠に日常が続くという設定に対し、 日常から永遠に脱出できないという不気味さを描くことで、日常系作品の構造に疑問を投げかける という構造の作品となっていました。
永劫回帰
本作は「同じ事象が永遠に繰り返され、脱出することができない」という永劫回帰を題材にした作品となっています。作品の中で生活をしているキャラクターたちにとって、物語の中の世界は当たり前な日常が永遠に続いている状態であり、コンテンツとして永遠に続いていく人気作品のキャラクターたちの立ち位置をフリードリッヒ・ニーチェの思想である永劫回帰に重ね合わせて描いています。
作品としての異質さ
本作はこのように作品として非常に含みの多い内容となっており、従来のように純粋にキャラクター同士の駆け引きを楽しむという『うる星やつら』の内容とは大きく異なる作品となりました。普段自分たちが純粋に楽しんでいた日常系作品での、永遠に同じような日常が繰り返されていく現象の異質さに気づかされ、考えさせられたというファンが多かったのです。
一味違ううる星やつら
単純なエンターテイメント作品というだけでなく「作品自身が持っているエンターテイメント性に対しても疑問を投げかける」という点でもその他の『うる星やつら』シリーズとは大きく異なる作品となっているのです。
究極のメタ視点アニメーション
本作は純粋にストーリーを描き世界観を表現することを目的としたアニメーション作品が主であった1980年代のアニメ業界において、突如として現れたメタ視点アニメーションだったと言えます。
俯瞰的にアニメを楽しめる作品
純粋に作品に没入して楽しむのではなく、その作品のありようや表現について、やや俯瞰的な立ち位置で考えてみようという発想を初めてファンに提示した作品なのです。
押井守監督の出世作
本作のインパクトは非常に強く、監督だった押井守は一躍注目されることとなります。これ以降も押井守監督作品は多く制作されることとなり、後に宮崎駿や庵野秀明などの日本の超一流アニメーション監督の一員として数えられることとなるのです。
押井守と永劫回帰
押井守監督作品は一貫して永劫回帰をテーマとして、アニメーション作品と現実世界の中間にあるような立ち位置の作品を制作しています。単にストーリーやキャラクターを楽しむだけでなく、作品の中に込められた深い哲学性や作品自体に対する疑問提起など、大人になってから観てみると深く考えさせられるような作品が多いのが特徴です。
『イノセンス』へ
本作を通して描かれた押井守監督の永劫回帰描写への挑戦は、やがて2004年に公開された攻殻機動隊シリーズのアニメ映画『イノセンス』にて身を結ぶこととなります。『イノセンス』も本作と同じように永劫回帰をテーマとしながら、コンピューターグラフィティフィックスでの描写や、原作である『攻殻機動隊』ならではの異世界観が見事にマッチし、 熱狂的な指示を集めました。
海外からの評価が高い『イノセンス』
特に海外からの評価は高く第57回カンヌ国際映画祭のコンペティション部門にて上映され、日本のアニメーション作品唯一のカンヌコンペティション部門でのノミネート作品となっています。
芸術としての評価
押井監督作品を一言で表すと「アニメーション作品としては普通だが、芸術作品として見れば超一流」につきます。海外では押井守作品は芸術として受け入れられており、特にヨーロッパで熱狂的な教養人からの支持を得ているのです。
一味違うアニメを求めるなら押井作品
日本を代表するアニメ監督として宮崎駿、庵野秀明があげられますが、本当に大人が楽しめる 作品を描いているアニメ監督を探すのであれば押井守が一番でしょう。視聴者に対して一切妥協しない作品制作で作られている押井守作品は、子供が観ても楽しめるように設計されている、他のどのアニメーション作品と比べても圧倒的に深みがあり、見応えがある作品となっているのです。
瑠美子ワールドvs押井ワールド
一方で本作『うる星やつら2 ビューティフルドリーマー』はこれまでのうる星やつらシリーズとは大きく異なる作風の作品となっているため、高橋留美子作品としてのうる星やつらが好きなファンからしてみれば納得の行かない作品となっているのも事実です。
「私の作品ではない」
原作者である高橋留美子さんは本作を称賛しつつも「あれは私の作品ではない」との発言を残しており、明確に自身が目指している『うる星やつら』シリーズとは異なるというスタンスを貫いています。『うる星やつら2 ビューティフルドリーマー』に関しては留美子ワールドというよりも押井ワールド全開の作品となっているのです。
日常系作品へのアンチテーゼ
特に押井守監督が目指す永劫回帰というテーマは、同じような日常がただただ繰り返すだけの日常系作品に対するアンチテーゼとも受け取られるようなテーマとなっており、受け取り方によっては、『うる星やつら』シリーズそのものを否定する内容になりかねないものとなっているのです。
実際に観て確かめよう
何はともあれ、筆者の意見は「見て損はしないから、一度視聴してみた方がいい」です。本作は永劫回帰を得意とする押井守監督が初めて永劫回帰を扱った作品でもありますし、初めて脚光を浴びた作品でもあります。アニメ史に残る作品であるということは間違いありませんので是非とも注目をしておきましょう。
後世の作品に与えた影響
本作『うる星やつら2 ビューティフルドリーマー』が後世に与えた影響は計り知れません。本作でテーマとして描かれた永劫回帰は、日常系作品に対して疑問を投げかけるテーマとなっており、後に描かれることとなる日常系作品にとっても無視をすることのできないテーマとなっているのです。
エンドレスエイトや無限月詠へ
人々に望まれる日常が永遠に続き、抜け出すことができないという設定は後の作品では涼宮ハルヒシリーズのエンドレスエイトやNARUTOの無限月詠などに継承されています。幸せな日常パートが永遠に続くアニメーション作品としての幸せを願うのか、それとも意思を持ってループを抜け出し、物語を終わりへと導くのかというカットは全ての漫画家そして 視聴者の悩みでもあるのです。
本作のメッセージ
本作『うる星やつら2 ビューティフルドリーマー』では、永遠に幸せな日常を繰り返し続ける諸星あたるが、最後は辛いこともある現実世界に戻ることを決心し、ループから抜け出すことに成功するという物語になっています。
現実とアニメ
永遠に続く日常というのは 我々が普段見ているアニメ作品などのエンターテイメントの世界を表しており、「一生家に引きこもり続けて面白い作品を楽しみ続けていればいいじゃないか」という、ニートならではの考え方を表しているとも取れます。そのように考えると本作は「楽しいことばかりのアニメ作品やゲーム 作品から勇気を持って抜け出して、自分の力で辛い現実世界へと飛び出していこう」というメッセージが込められているのです。
アニメ作品への憎悪
押井守監督は過度に技術が進み、没入感が高くなるアニメーション作品に対して警鈴を鳴らすとともに、ただひたすらに没入感を強め現実へと戻れなくなってしまうような中毒性の高いアニメーション作品の登場に対して危機感を持っているのかもしれません。
萌えキャラご都合主義ラブコメの時代に一石を投じる
本作『うる星やつら』シリーズを通して始まった日本の萌えキャラブームとご都合主義のラブコメ展開のアニメ作品とは真逆の切り口でアニメーション作品を芸術として進化させ、永劫回帰を通して現代の作品に対するアンチテーゼを掲げているのです。
まとめ
いかがでしたか?今回は本作『うる星やつら』シリーズの伝説的劇場版作品である『うる星やつら2 ビューティフルドリーマー』について紹介をしていきました。本作は現在アニメ放送をされている新『うる星やつら』シリーズとは全く異なった切り口の『うる星やつら』となっており、 新アニメシリーズで新しく本作を知ったというファンの方であっても十分に楽しめるような作品となっています。是非とも新アニメシリーズを楽しんだ後にビューティフルドリーマーもチェックしてみてくださいね。