個性豊かな生き人形たちと、一癖も二癖もあるシャドーたちが心を通わせ合い、どこか異質な屋敷「シャドーハウス」で権力闘争を繰り広げる本作『シャドーハウス』ですが、登場人物が真っ黒のシャドーと呼ばれるキャラクターが存在したり、冒頭ではほとんど詳しい説明がなくストーリーが進行したりとかなり頭を使う作品となっています。特に全身が真っ黒なシャドーたちは設定が複雑な上、表情を読むことができず、中々つかみどころのないキャラクターたちとなっています。そこで今回は今シーズン最も難解な作品である本作について、そのテーマやシャドー一族の作品としてのテーマについて考察をしていきたいと思います。
シャドーハウスの異質さ
さて、本作のテーマについて解説する前に、まず本作が他の作品と比べてかなり異質な作品であるということを紹介していきたいと思います。数多くの趣向を凝らした作品が多く登場する近年のアニメ作品群の中でも本作は特に異質な点が目立つ作品となっています。
顔のないキャラクターはかなりリスキー!?
まず第一に本作の異質な点として挙げられるのが主要キャラクターとして登場するシャドー一族たちでしょう。彼らは顔だけでなく全身が真っ黒なキャラクターたちなのです。全身が真っ黒な作品が作中に多く登場する作品というのはまずないのではないでしょうか?
感情を呟きで説明するしかない
というのも、顔を真っ黒に塗りつぶしてしまうと表情を描くことができないんですね。アニメと違い、キャラクターの感情を声音で表現することができるのですが、漫画ではそうはいきません、キャラクターの表情などを駆使して心情を描くしかないのです。
大胆な選択
そんな特性のある漫画作品において主要キャラクターの約半数をカオナシにしてしまうというのはかなり思い切った選択だと言えるのではないでしょうか?
何かメッセージがあるはず
当然、そんな大胆な選択をしたということはそこまでのリスクを起こしてでも顔を描かないことで表現できる設定やメッセージがあるからなのでしょう。ここからはそんな作者がシャドー一族のメタファーとして設定しているものが何なのか考えていきたいと思います。
そもそも本作が描く時代は?
本作のテーマについて考えるためには、まず本作の舞台となっている世界の年代について考えていかなければなりません。本作『シャドーハウス』の舞台がいつ頃の世界なのか考えることによって、その時代ごとの世界の潮流を元に作品を考えることができるからです。
産業革命期?
本作の舞台の年代を特定するのはそこまで難しくはありません。作中ではありとあらゆるものがが蒸気機関で動いています。つまり、まだ電気という概念のない世界の話であると考えられます。それに加えて貴族階級もまだ土地を持っている時代ですので、ちょうど蒸気機関が世界に広まり始めた産業革命期の西洋が舞台なのではないでしょうか?
貴族の没落と産業革命
そう考えると、本作に貴族という言葉が多く出てくるのに対して、ちゃんとした貴族が一切出てこないことにも納得が行きます。産業革命期というのはこれまでの封建制が崩れた時代ですので、ちょうど貴族達が没落していき消えていった時代だからです。
産業革命期とは?
それでは、ここからは本作の舞台となっている産業革命期の世界について紹介していきたいと思います。
貴族と庶民のパワーバランスが崩れる
先ほども紹介したように産業革命期というのは一言で言えば、庶民と貴族のパワーバランスが崩れた時代なのです。
土地と工場
これまでは土地を所有していた貴族が財を成していましたが、蒸気機関が発明され産業が生まれると、土地を持つ貴族より工場を持つ一部の庶民の方が力を持つようになりました。
ケイトの一族
作中で語られていますが、ケイトの一族は元々普通の人間で貴族階級だったようです。しかし、住民を襲った謎の病原体に襲われ一族は滅びたと語られています。当時はケイトの一族のようにさまざまな理由で没落する貴族が多くいたのです。
石炭というエネルギーの影響
このように産業革命期は蒸気機関とそのその動力源になる石炭によってこれまでの産業構造だけでなく国家のあり方や文化まで大きく変えてしまったのです。本作はそんな産業革命期の激動の時代を描いているのです。
学校教育と産業
その中でも特に注目してほしいのは学校制度の変化です。産業革命期は工場で働く人が多く必要な時代でした。そのため、これまで必要でなかった労働へ従事するための能力を育成する必要が出てきたのです。学校制度というのはこのような急激な時代の変化のもとで生まれた制度なのです。
貴族よりも残酷なジェントリー階級
当時の工場を持っていた庶民をジェントリー階級というのですが、まさに産業革命期はジェントリー階級の時代でした。学校教育で農民を労働者に教育した後、工場で過酷な労働をさせることで財を成していた彼らは、ヘタをすると貴族よりも残酷な存在であったと言えるかもしれません。
血ではなくすすに汚れた一族
これまで世界を収めていた貴族階級が人々を戦争に動員することで地位を得ていた時代から、人々を労働で酷使することで権力を有する時代へと変わっていたのです。そのように考えると貴族を追い出し、人々を洗脳することで従えているシャドー一族はジェントリー階級に近い存在であるということがわかると思います。
コーヒーについて考える
さて、ここからは本作で重要な役割を担っているコーヒーについて考察していきたいと思います。まずはコーヒーがどのようなものなのか紹介をしていきます。本作に登場するコーヒーはすす能力を仕込まれた特殊なものですが、コーヒーの歴史について深掘りしていくことは、作中でなぜコーヒーにその洗脳薬を模したのかという謎へ近づくために必要になってくると思います。
かつては秘薬だった
コーヒーは元々アラビアが起源の飲み物です。それがアラブ地域に伝わり、貴族階級のみが味わうことのできる秘薬として扱われていました。このように本来コーヒーは本作で描かれている特殊な飲料物として扱われていたのです。
工場労働の普及と共に世界へ
そんな本作で扱われているコーヒーと同じように秘薬として現実でも扱われていたコーヒーですが、ちょうど産業革命期に一般庶民へと広がっていくこととなります。コーヒーの歴史に注目してみても産業革命期というのは一種の転換期だったのです。
洗脳コーヒー
コーヒーは覚醒作用を含むカフェインを含んでいるので、労働者が長く働くために重宝していたのです。一般庶民がコーヒーを多く飲むようになったのは、学校教育と同じように労働者層を効率的に働かせるために普及したものなのです。このようにコーヒーが普及した理由を深く考えると、本作で労働を強いられる生き人形達の洗脳道具として使われていたという点も納得できますね。
近代産業革命とシャドー一族
上記で紹介したように本作の登場するシャドー一族やすす能力が施された洗脳コーヒーは産業革命期のジェントリー階級やコーヒーと酷似していることがわかるでしょうか?産業革命期に起こった時代の変革を題材にホラーミステリー風の作品に仕上げているのが本作の特徴なのです。
シャドー一族は私たち自身と重なる
このようにシャドー一族はジェントリー階級を表しています。資本主義社会の中で人々を洗脳し、工場で働かせ自身は人生を謳歌する。というのが、今日本で裕福な暮らしをしている私たち資本主義世界の住人の正体なのです。血ではなくすすに汚れた存在は、アフリカなどの安い労働力に支えられている私たち自身と重なるのかもしれません。
現代へ伝えるメッセージとは?
上記のように考えてみると、シャドー一族は私たちと重ねることができるという点にお気づきいただけたでしょうか?私たちも日本という裕福な「シャドーハウス」にとらわれているようなものなのかもしれません。資本主義社会の問題点を抽象的に表現し、私たちに問いかけている作品とも受け取ることができますね。
まとめ
いかがでしたか?今回はかなり攻めた内容でしたが、お楽しみいただけましたでしょうか?少なくとも本作が産業革命期の人類の過ちである、公害や労働者の酷似を描いていることは間違いないと思われます。これらの題材から作者がどのような主張をするのか見落とすことのないようにじっくりと考えてみてはいかがでしょうか?