今年アニメ化されることとなった本作『明日ちゃんのセーラー服』ですが、本作の最大の魅力として、主人公の明日ちゃんが持ち前の天真爛漫な性格で、同級生たちのコンプレックスや悩みを知らず知らずのうちに解決していくというストーリ構造があるのではないでしょうか?何か嫌なことがあったりした日に本作を読んで、作中に登場する明日ちゃんの同級生のように明日ちゃんの明るさで元気づけられたという読者の方も多いと思います。そんな、数多くのファンにとって元気の源になっている本作ですが、実は本作に対して「気持ち悪い」と評価する声も少なくないことはご存知ですか?今回はそんな、本作に対する評価がなぜここまで二極化しているのか?という点を他の作品とも比べながら考えていきたいと思います。
目次
なぜアニメの「気持ち悪い」が出てくるのか?
本作については「すごいいい作品だった!」ととにかく勧めてくる人と「気持ち悪くて見ていられなかった」といって、本作を拒絶してしまう人で二極化しているように感じます。ここまで読者の反応が分かれる作品というのも珍しいのですが、なぜ本作を拒絶してしまう読者が一定数出てくるのでしょうか?
アニメが楽しめる人とそうでない人
この問題は突き詰めるとアニメを楽しめる人とそうでない人との差はどこで出てくるのだろうか?という問題につながっているように感じます。本作の評価がなぜ二極化しているのかを探ることでそこから先に更に深い「アニメを楽しめない視聴者と楽しめる視聴者の見方は何が違うのか」という点まで深掘りしていきたいと思います。
要素1 表現の厚み
まず、一般的なドラマとアニメとの最大の違いは「登場人物の心情表現の厚み」ではないでしょうか?当然ですがアニメ作品ではドラマのような細かいキャラクターの心情表現はできません。ドラマなどでは俳優さんがことあるごとに細かく表情を変えることで登場人物を複雑な心情を表現しています。しかし一方でアニメでは細かくキャラクターの顔を常に変動させるという事はできません。そのためドラマなどを長く鑑賞していた視聴者にとって、アニメキャラクターはどこか薄っぺらく人形のような存在であるかのように感じてしまうのです。
要素2 声優と俳優
もちろんアニメにも声優という血の通った演技をする人がキャラクター表現の一部として活躍しています。しかし、いくら声のプロフェッショナルといっても身振り手振りや顔の微妙な表情までも使って複雑な表現をする俳優には、表現の幅で勝つことができないのです。
要素3 ドラマ・演劇との対比
そのためドラマや演劇などの実際に人が演技をする作品を見てきた人たちにとっては、人間の複雑な心情変化を読み取るものこそが鑑賞すべき作品であるという前提知識があるので、アニメーションを見た際にその他の作品と比べてキャラクターの心情に厚みがなく、どこかつまらない作品のように感じてしまうばかりか本作のように気持ち悪いと感じてしまう結果となっているのではないでしょうか?
なぜ本作を「気持ち悪い」と感じる人が出てくるのか?
これまではアニメーションとその他の実写作品との表現の厚みの違いについて紹介し、なぜアニメーションが嫌悪感を抱かれやすいのかという点について解説していきました。ここからはその中でも本作『明日ちゃんのセーラー服』に注目してさらに深掘りしていきたいと思います。
明日ちゃんの「裏」のなさ?
特に本作に登場する明日ちゃんはアニメに登場する数多くのキャラクターの中でも裏がないキャラクターです。言い換えればものすごくいい子という事なんですが、本作ではあまりにの負の感情が描かれていません。そのため普段から実際の人物が演技する複雑な心情変化をする人物としての成長を見てきた視聴者にとってはどこか薄っぺらいキャラクターのように写ってしまっているのではないでしょうか?
アニメの学園モノで描ききれない学園モノの魅力
アニメーションというのはあくまで絵ですから0コンマ1秒で移り変わる複雑な心情表現をすることができません。さらに学園モノと呼ばれるジャンルでは思春期の複雑な心の成長の過渡期を迎えている少女たちの交流を描かなくてはなりません。そのためアニメーションでは通常のドラマなどで描かれている複雑な心情が入り乱れる学園モノ作品を描くことは非常に難しいのです。
万人に受け入れられるアニメ作品
上記で解説したように実写の作品ではできるような事はアニメ作品では難しかったりします。そのためアニメ作品に関しては、人によって好き嫌いが出てしまうんですね。しかし世の中にはそのような状況であっても、ほぼすべての日本国民に受け入れられるようなアニメ作品というものも存在します。ここからはそのような作品が一体どのような工夫をしているのか?という点に関して紹介していきたいと思います。
ジブリ作品
まずなんといっても、万人に受けるアニメ作品といえばジブリ作品が頭に浮かぶ方が多いのではないでしょうか?まるで本当に生きているかのような細かいキャラクターの心情描写を描ききると同時に、物語の構成としても深いメッセージ性を常に秘めている作品を多く作出してるのがスタジオジブリです。特に宮崎駿監督作品の代表作『千と千尋の神隠し』は実写映画であっても到達することのできないアニメならではの表現の深さを追求した作品となっています。
新海誠作品
近年注目されるようになった新海誠監督作品も非常に多くのファンに支持されていますね。新海誠作品の特徴はジブリ作品よりもさらに緻密で繊細な絵を描くことによって、実際よりもさらに美しいものを描いてしまおうとしているところです。まさに実写映画よりも表現が浅くなってしまうというアニメの弱点を逆手にとって、逆に実写よりも複雑な表現を描いて見せようというなかなかチャレンジャーなことをしている作品であるともいえます。
庵野秀明作品
最新作新エヴァンゲリオンによって、近年さらに注目されている庵野秀明作品も多くの人々に受け入れられているアニメ作品であると言えるでしょう。庵野作品の特徴的なところはアニメ作品だけにこだわっているのではなく、『シン・ゴジラ』などのように実写作品にも精力的に取り組んでいるという点です。そのためアニメ作品でありながら実写映画のような表現技法を取り入れたり、アニメ作品でしかできない構図を取り入れたりと、実写映画とアニメ作品の両方を使って作品を作っているという特徴があります。
なぜ万人に受け入れられる作品が存在するのか?
ここからは上記で解説したような「万人に受けると言われる作品」がどうして成立しているのかという点について考えていきたいと思います。
アニメでしか描けないものを描いた
上記で解説したアニメ作品に共通しているのはアニメーションでしか描けないものを追求しようとした点です。人物としての細かい表情の書き分けや、その時々の心情変化を描ききる点に関してはアニメーションは不得手です。しかし一方で全体的な絵としての構図や、一人ひとりのキャラクターを複数配置することによって描かれる人間ドラマを描くことに関してはアニメーションが非常に優れているといえます。
アニメはどう楽しむのか?
このようにアニメーションにはアニメーションの良いところが、その他作品にはそういった作品の良いところがあるというところを前提として押さえておくと、アニメーションもさらに楽しむことができるのではないでしょうか?
『明日ちゃんのセーラー服』の楽しみ方
これまで万人に受けているアニメ作品を例としてアニメ作品の優れている点、実写作品の優れている点を挙げてきました。ここからは本作『明日ちゃんのセーラー服』に置き換えて、明日ちゃんのセーラー服はどのように楽しむべきなのかという点を紹介していきたいと思います。
コンプレックスの解放の物語
まず第一に本作の魅力はキャラクター一人ひとりの心情変化ではありません。 明日ちゃんと言う心底明るいキャラクターがその周りの人物たちのコンプレックスを解放していくと言うストーリー進行が本作の魅力なのです。 そのため本作では明日ちゃんの成長を見守るというよりも、その周りの同級生たちがどのように明日ちゃんに助けられているのかという点に注目して見てみてください。
主役は同級生たち
つまり本作の主役は同級生たちなのです。彼女たちの悩みや成長が我々読者に共感できるように作られています。そのため主役の同級生たちを得るために存在する明日ちゃんに注目して見てしまうと、明日ちゃんの変化があまりにも少なく青春モノとして薄いものと感じてしまうのです。
明日ちゃんの悪意
特に本作では心底明るい明日ちゃんの性格が逆に誰かを傷つけてしまうシーンというのが多く描かれているのです。木崎さんの大切なものを取りに行くために自ら危ない場所に突っ込んでいったりと、純粋すぎるが故に周りを「どうしてそこまでの行動ができるの?」と困惑させてしまったり。「明日ちゃんのようになれないなぁ」と悲観的な気持ちにさせてしまったりと、明日ちゃんが心底明るく完璧な性格である上に、そうなれない自分を比較して傷つくキャラクターというのが多く描かれているのです。
キャラクターの細かい描き分け
明日ちゃんの明るく強い性格によって勇気づけられ助けられる同級生がいるのと同様に、時には明日ちゃんの性格によって自らのコンプレックスを逆に刺激されて落ち込んでしまうキャラクターというのがいる。というようなキャラクターの細かい心情の描き分けがされているという点が、本作の最大の魅力なのではないでしょうか?
同級生に注目すれば本作は気持ち悪くない!
このように本作に対して気持ち悪いと言う感じてしまう人は、その多くが実写作品を見てきたことによって複雑な人物の心情変化を読み取る能力が長けている傾向があります。そのため何の裏の感情もない明日ちゃんを見ることによって、どこか気持ち悪さを感じてしまうんですね。しかし本作の最大の特徴は心情の変化を明日ちゃんに置くのではなく、明日ちゃんという完璧な存在がいるからこそ、周りの不安定な同級生たちが揺れ動き、時には勇気づけられるというストーリー構成になっていることです。ぜひ本作を見た時気持ち悪いと感じてしまった読者のみなさんは、もう一度明日ちゃんの周りの同級生に注目して見てみてくださいね。
まとめ
いかがでしたか?今回は『明日ちゃんのセーラー服』に対する「気持ち悪い」という意見について考察していきました。明日ちゃんというあまりに裏のない純粋すぎるキャラクターに困惑をしている方も多いかもしれませんが、本作の魅力は明日ちゃんではなく、その明日ちゃんの周りに描かれている同級生たちの関わりです。ぜひその点に注目してもう一度本作を見直してみてください。もしかしたらこれまででは浮かばなかった感想が出てくるかもしれませんよ。